幽霊座 (角川文庫 緑 304-10)
価格: ¥297
人気髄一といわれた若手役者・鶴之助が夏狂言「鯛つかみ」の芝居中、こつ然と姿を消してから17年。古朽ちた芝居小屋「稲妻座」で鶴之助の17回忌追善興行が催されている最中、再び事件が起こり、惨劇が相次ぐ――。梨園にわだかまる因襲と確執、親子の愛憎の中に、すべての謎が隠されていた。本書は奇抜な発想と謎解きの醍醐味で定評がある横溝正史の推理中篇を3編収録。ストーリーテラーとして名高い著者は、表題作「幽霊座」と「烏」で死んだはずの人間が現れるという人間消失のトリックに挑戦。また、「トランプ台上の首」では、生首のみを残し、胴体を隠すという犯人の不可思議な行動にスポットを当てている。ヌードダンサー、水上生活者に惣菜を売り歩くおかず屋、自動車ブローカーなど、著者がこの作品を描いた当時の世相をたくみに表現しているのも興味深い。横溝正史が描く神秘的な世界で、名探偵金田一耕助の名推理が冴えわたるのだ。(猫濱奈緒)