ちと 読みづらい
★★★☆☆
内容的には面白いのですが、もうひとつ読みづらさが残る作品でした。
ひとつは、起承転結が今ひとつはっきりしないことです。
各章の問題提起が曖昧なため、その後の論点がぼやけて見えるのです。
これは、キリスト教的世界観による西欧文化を前提とした女性像が背景としてあるからだと思います。
日本人の我々にとっては、とっつきにくいのです。
それと、翻訳のせいかな??
人類にとっての子殺しとはどういうことかなど、大変興味深い話が多いので、
竹内久美子氏などの文体で改めて紹介してもらうと、一般受けするかもしれません。
安易に「母性」というなかれ。生命・女・母の玄妙さを説く好著
★★★★★
子ども・子育て・健康に関する職業人、かつ女性、かつ母親(のはしくれ)として、種々雑多な好奇心にかられて手にした本ですが、いやあ面白いです。充実した内容の分厚い書物を読む幸せを満喫できます。
人間といえども動物であり、地球の生命の流れの中にごく最近登場した新参者に過ぎません。太古から生命が種族保存のために獲得してきた種々の形質の中に「母性」が含まれており、人間も動物である以上、女性にはおしなべてその母性が生まれつき備わっている…と、最近まで信じられてきました。 昨今の社会変化の中、さまざま議論を呼んでいる母性「本能」も、実のところ、男性優位社会を築いた男性の願望をこめた仮説にすぎないのだ! だいたい、動物がみな自動的に母性本能を持っているとは限らないのだから! という、衝撃的な宣言からこの本は始まります。
…しかし、だからといって、女性が感情的にこの議論からドロップアウトしてしまう時代ではもはやありません。社会的動物としての人間の「母性」の本態を明らかにするため、著者の考察が始まります。膨大な文献を駆使し、多岐にわたる動物界の克明な観察・分析と、人間社会の観察を縦横無尽に行き来しながら、繁殖・出産・育児の本質を少しずつ着実に解きあかして行く著者のまなざしは、人類学者、かつ女性、かつ母親としての探究心と機知と愛情(生命一般からわが子に至るまで)に満ちています。
一気に読めてしまう、とはいいません。読みながら咀嚼する作業が必要で、結構時間をかけて読みましたが、笑ったりため息をついたりうなずいたり、とにかく幾重にも楽しめました。自然科学と社会科学の共同作業を体験できる、サイエンス・ノンフィクションの醍醐味に満ちた書です。読み手によって多彩な読み方があることと思います。下巻が楽しみです。
母性は「本能説」と「神話説」という二項対立では解決できない複雑な特質
★★★★★
人間の母親には、子どもを慈しむ本能があるとされている。しかし、そんな「母性」は男性優位社会につごうのよい神話であると、フェミニストは反論する。それに対して著者は、母性は「本能説」と「神話説」という二項対立では解決できない複雑な特質であると説く。「母な(マザー)る自然(ネイチャー)」を改変することまでも学んでしまった人間は、かなりひねくれた存在だからだ。ずっしりと読みごたえのある、しかし思考の転換を迫らずにはおかない刺激的な書である。