「読むこと」と人間の特性との関係がわかる
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この本は以下のような疑問が下敷きになっています。
読んで「分かる」とは、どういうことなのか?
人間のバイアスが読解へ及ぼす影響は?
理解の個人差はどこから生まれるか?
読むことと他の認知能力の関係は?
最近の読解研究の成果は教育分野に適用出来るか?
…などの疑問に答えられる本になっていると思います。この本で扱われている個々のトピックは、心理学ではこれまでにも指摘されてきたものですが、読解活動から見てどういう意味を持つのか?を全般に整理し直したものはなかったので勉強するのに役立ちました。
図や先行オーガナイザー、読解ストラテジー、相互教育などのトピックも扱われているので、読解教育を根本から見直すきっかけにもなるのではないでしょうか。
文章の理解を通して、人間の理解を考える
★★★★★
本書は、文章理解の仕組み、その研究成果からの教育への適用、そして個人差や文化差の問題までを、あくまでも文章理解に焦点を置き、これまでの研究が整理されている。
文章理解について初めて読む読者から、もっと詳しく研究史を知りたい人まで読めると思う。「文章を読んで理解する」とはどんなことなのか、その仕組みに立ち入って解説することで、文章理解のために何を押さえておけばよいのか、一冊の本に収めていると思う。
紹介されている研究は、100年ほど前の古典的研究から現在のものまでで、文章の理解を考える上で、エポックメイキング的な(その分野を開拓し、道筋をつけた)と思われるものを、文章理解にとって、どう重要であったかを押さえている。第4部の「考え方のタマネギモデル」や、「少し読みにくいほうが効果がある」の部分は、教育分野にも興味深いものである。
この分野を一人の著者で書くのは無理というものでは?
★☆☆☆☆
はっきり言って、この分野は、一人の著者で書くには広すぎる。そのため、どこかで読んだような気がする内容の寄せ集めという印象がぬぐえない。それでは、いくつかの本を読む手間が省けて、この1冊で済むのかというと、散漫な印象が残るだけで、何がポイントか、何のためにこの本が書かれたのか、誰を読者として想定しているのか、最後までわからない。そもそもこの分野では、非常に易しくわかりやすく書かれた、秋田喜代美さんの『読む心 書く心』、文章理解の今の研究の最前線を取り扱った大村彰道監修の『文章理解の心理学』があり(少し古くなったが、しかしこの本に取り上げられている論文はもっと古い!! この著者は、今の文章理解研究の最前線の論文を読んでいるのだろうかと思ってしまう)、入門的なものを求めている人は前者を、専門的なものの入門編としては後者を読むべきだ。こういう名著があるのに、あえてどうして今さらこの著者は書いたのだろうか???と、少し意地悪く思ってしまったのでした。