宮脇檀氏の他の著書と一緒に読まれると、なお一層氏の設計の考え方が理解できると思います。
しかしそれは現代の技術に於いても、建物を含む地域全体はもとより、其処に住む居住者を十分に配慮してはじめて成し得ることに他ならないのである。一見近未来的な外見のみを追い求めるように見える現代建築にも、その形態には内在する必然性があって然るべきである。快適であって、其処に住まう歓びや、知的な優越感をも感じさせる住宅とはどのようなものであろうか(勿論、経済性・耐久性だって重要だ)という問いは永遠に消えはしないだろう。それは、卓越した科学的根拠に基づく機能性の追求と、人間的欲求の反映された空間を構築した住宅のみがもつであろうことは想像に難くない。
この本には、そうした問いに対する建築家の思考の軌跡が惜しげもなく書かれている。惜しいことに急逝された著者が語る細やかな居住者に対する配慮は神々は細部に宿ると謂う事はこういう事なのだと伝えてくれる。とぼけたべらんめえ調の記述のなかに揺るぎない論理の展開と無類のやさしさが込められているのである。住宅という居住空間を、まずはそれを構築している構成単位に分解し、ひとつひとつ検証し設計し且つまとめ上げるのである。そうした後もそれらが組合わさって相乗効果を上げる迄そうした検証は設計段階で繰り返されるのだ。そうした作業の積み重ねによって先に述べたことを反映させる形態が誕生するのである。それらは、美しく、面白く、且つ人にやさしい。そしてなによりも何人であっても理解可能なのだ。