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「韓流」と「日流」〜文化から読み解く日韓新時代 (NHKブックス)

価格: ¥1,155
カテゴリ: 単行本(ソフトカバー)
ブランド: 日本放送出版協会
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この著者にしか書けなかった「日韓新時代」 ★★★★★
 韓流について書かれた本はたくさんあるが、本書はこれまでの類書とは大きく違う。日本の韓流ブームが韓国における「日流」現象につながったという視点から、日韓間に起こった大衆文化の相互作用をつぶさに追っている。韓流を一方通行ではなくデュアルな潮流ととらえて論を進めたのは、本書が初めてかもしれない。

 そんな本が実現した要因のひとつは、つねに日韓のはざまで生きてきた著者のユニークな生い立ちだ。著者はソウル生まれの韓国人。8歳のときに福岡に転校すると、最初の休み時間に、前に座っていたおかっぱ頭の女の子から突然、脈絡もなく「あなたはチョーセンジンです!」と言われる。反論できない事実だが、あまりに多くの意味が詰め込まれたこの言葉は、著者の人生を決定づける。

 日本と韓国を行き来しながら育つ過程で、著者はみずからを日韓間の「ポップカルチャー伝道師」と位置づける。軍事政権下のソウルで過ごした高校時代には、雑音に負けずに日本の深夜ラジオを聴き、クラスメイトのために日本のアイドル雑誌を翻訳した。東京の大学時代には、日本の友人たちに手製のキムチ鍋を振る舞いながら、字幕のない韓国映画を同時通訳しながら見せた。それもこれも、ポップカルチャーの力を信じたからだが、最後には彼の前にナショナルな壁が立ちはだかる。著者は日韓のはざまでトランスナショナルな「境界人」として生きようと決意する。

 日本の「韓流」を追った第1部は、おびただしい固有名詞に若干ひるむが、著者は真摯な筆致で巨大な潮流の深層に切り込んでいく。韓国の「日流」を分析した第2部は、多くの日本人読者にとって驚きだろう。村上春樹や岩井俊二が、あるいはオダギリジョーや上野樹里が、これほどまでに韓国でインパクトをもつ存在だとは知らなかった。

 エピローグでは専門の国際関係史の枠組みも動員して、「日韓新時代」への提言を行っている。日本と韓国それぞれの現象を克明に追った後だから、斬新で具体的な提案が説得力をもって響く。韓流と日流という大きなうねりが日韓両国だけでなく、東アジア全体にとって意味をもっていることがわかる。

 構成はかっちりしているが、筆致はまったく硬くない。マクロな記述とミクロな事象が、心地よいバランスでブレンドされている。なかでも魅力的なのは、日韓のはざまで希望と失望の間を揺れ動いてきた著者の個人的体験が、彼にしか書けない表現でちりばめられていることだろう。

 韓国併合100年の年にこの本が出版されたのは、日韓関係がようやく著者に追いつきはじめたからだ。「境界人」の居場所は、もうかつてのボーダーではない。