第四回、宮崎アニメで宗教学
★★★★☆
『千と千尋〜』のストーリーを細かに追いながら、その背後にあるメッセージを考察し、また個々のエピソードやキャラクターに関連した文科系の教養話(主に宗教学)をする本である。同趣旨の著書としては『ナウシカ』『トトロ』『魔女の宅急便』を扱った作品が既に出ており、シリーズものといってよいだろう。著者は大学でも「アニメで宗教学」のような講義を行いかなりの人気を博していると聞くが、本書を読んでいると、確かにこのような話を授業でやってくれれば楽しめるだろうな、と想像することができた。
『千と千尋〜』という傑作アニメ映画のコアには、金銭欲をはじめとする人間の醜悪な欲望に対する批評がある、というのが本書で一貫して主張されていることだ。湯婆婆はいわば現代資本主義の権化、カオナシからはオタクの矮小な自我や児童への性欲が読み取れる、云々。こういう「解説」には私はあまり感心しなかったが、それなりに当たってはいるのだろう。
むしろ面白かったのは宗教学的レクチャーの方で、ハクをダシにして龍神信仰について述べたり、千と湯婆婆の契約をめぐり唯一神教の発想や言霊思想について論じるなどの点は、なかなか面白い勉強になった。これらの情報を単に素のまま与えられるのではなく、こうして映画のイメージとともに教えられると、とてもわかりやすく、また記憶もしやすくて、いいと思う。