意外な人物
★★★★☆
遺産相続の遺言書にあわせて、次々と殺人が起こる話。登場人物はそれぞれ個性的なのに簡単に次から次へと死んでいくので、だれがだれがわかりにくかったのが難点です。
しかし、ラストの犯人は意外や意外。途中でわかるんですけれど、それでもびっくりしました。
悪夢の如き恐怖劇!「そして誰もいなくなった」+怪奇密室ミステリーの最高傑作!
★★★★★
読後強烈な印象を残す怪作を発表し続けた知られざるアメリカ・ミステリー黄金時代の異端派作家ロスコーの恐るべき代表傑作です。本書はミステリーと怪奇小説ファンが泣いて喜ぶゾクゾクする読み心地の近来稀に見る最高傑作だと思います。もしも怪奇密室ミステリーの巨匠カーが女王クリスティーの「そして誰もいなくなった」の趣向に挑んだらという豪華で贅沢な夢が味わえ、更に本家をも脅かす程に魅力たっぷりの素晴らしい仕上がりになっています。
ハイチに住む実業家が謎の死を遂げ、遠戚のピート(パトリシア)嬢の元に弁護士が訪ねて来る。婚約者を自認する本書の語り手、画家のカートが彼女を説得して二人が向かった屋敷で奇妙な事態が続発する。彼女を含めて八人の相続関係者の前で明かされた遺言は、「私の棺には杭を打ち込む事、財産は全て第一相続人に譲るが24時間以内にその者が死亡すれば、第二相続人に権利が譲られ、順番に最後の者まで続く」という内容だった。やがて、深夜の葬儀後に故人の主治医が射殺される事件が起き、続いて相続人達が次々に不可解な密室状況下で殺されて行くのだった。
本書には著者の関心が深いハイチの邪教ヴードゥー教の怪奇趣味が濃厚で、終盤ではゾンビが墓から甦るぞっとする場面や主人公が棺桶もろとも生き埋めされる息苦しい恐怖の場面が描かれ、本格的な怪奇小説として読んでも十分満足出来ます。途中で登場するハイチの憲兵隊隊長も余りにも不可解な状況にお手上げとなり魔術を信じる始末で、読者も目まぐるしい怪異の連続に翻弄され何も信じられなくなるでしょう。本書の真相はいざ説明されて見れば驚く程に単純に思えますが、この悪夢の如き恐怖劇は長く人々の記憶に刻まれそうな忘れ難い余韻を残しますので、驚天動地の物語を構築した著者の功績を大いに讃えたいと思います。尚、最終章での意外な探偵役の判明と微笑ましいロマンスの一幕も存分にお楽しみください。
ヴードゥー!!
★★★★☆
掛け声だけに終わらない、まさに「埋もれていた傑作」。1930年代のハイチを舞台に
ヴードゥー教の神秘と怪奇性を背景とした異様な迫力を感じさせる筆致は瞠目に値する。
密室の解決自体はとりたてて創造的ではないが、道具立ての巧みさ、加速度をつけて
盛り上がっていくサスペンスとクライマックスの爆発力。パニック状況下の連続殺人
(本書では反政府勢力の蜂起)という点では「シャム双生児の謎」、1人また1人と殺害
されていく展開は「そして誰もいなくなった」、狂騒的な登場人物たちのグロテスクな様は
「不連続殺人事件」と名作を引き合いに出して語りたくなる傑作。「密室ミステリの歴史に燦然
と輝く、おそるべき怪作」(森英俊)とは至言。