著者はイギリスきってのポーランド史の第一人者で、ロンドン大学の名誉教授。2巻におよぶポーランド通史『God's Playground』で有名である。
本書に一貫する精神は、ポーランド人の伝統に、失われたポーランドの過去の栄光を回復しようとして支配者と戦ったロマンティシズムと、外国の支配を現実として受け入れたうえで、支配者と妥協することでポーランド人の生存、発展を図ろうとしたポジティビズムの間の思潮的葛藤があったことだ。著者は両思潮の代表者として、2人の独立の英雄、ユージェフ・ピウスツキとロマン・ドモフスキを挙げている。ピウスツキは軍人で、反露武力闘争から出発し、独立直後の対ソ戦争を勝利に導き、18世紀の版図に近い領土を回復した。他方ドモフスキは生物学者で、ロシア国会の議員となって政治的交渉を通じてポーランドの自治権を得ようと努力した。この2つの思潮は、現代史におけるレフ・ヴァウェンサ(ワレサ)率いる「連帯」とポーランド共産党の関係にまで連続しているのだ。またポーランド文学はこの2つの思潮の影響を顕著に受けており、アダム・ミッキエヴィッチ、ヘンリク・シェンキエヴィッチなどの有名作家たちが多数紹介されている。
しばしば「ヨーロッパの辺境」として扱われがちなポーランドだが、地理的にはウラル山脈も含むヨーロッパ大陸の中心に位置する。この事実によって著者は、題名を「ヨーロッパの中心」とつけているのだ。最後に本書は、著者が北海道大学スラブ研究センターに研究旅行中に、当時の所長伊東孝之と故秋野豊の協力のもとにできたことを付け加えておく。(川村清夫)