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The Habsburg Monarchy: From Elightenment to Eclipse

価格: ¥14,694
カテゴリ: ハードカバー
ブランド: Palgrave Macmillan
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   神聖ローマ帝国の伝統を受け継ぎ、第1次世界大戦で崩壊するまで中欧、東欧の11の民族を支配してきたハプスブルク(オーストリア・ハンガリー)帝国。これに関する歴史書は数多く作られてきたが、本書はその最新版である。著者はチェコからイギリスへの移民で、現在ウォーウィック大学の歴史学講師。本書が扱っている時期は、表紙絵にある1765年の啓蒙専制君主ヨゼフ2世の即位から1918年の帝国の崩壊までで、主なテーマは「ドイツ人をはじめとする帝国の諸民族が標榜したリベラリズムが、いかにして民族主義へと変貌していったか」である。

   ヨゼフ2世が、法のもとの平等に基づいて、封建領地の寄せ集めだった帝国を法治国家に改造しようとした啓蒙主義的改革を「ヨゼフ主義」という。このヨゼフ主義は諸民族の間に、立憲政を求めるリベラリズムの精神を植え付けた。ドイツ人自由派は1848年革命の失敗でいったん挫折するが、1867年に帝国を絶対政国家から立憲政国家に改造することに成功する。しかし彼らのリベラリズムは普遍的なものでなく、ドイツ人支配を制度化し、チェコ人などスラブ諸民族の平等を無視する自己中心的なものだった。1879年に自由派政権が退陣して親スラブ的な保守派政権に交代してから、スラブ諸民族との公用語問題などで民族的特権に脅威を感じたドイツ人はしだいにリベラリズムから逸脱、民族主義化してナチズムの下地を作った。チェコ人である著者は、他民族のリベラリズムについては、法のもとの平等を求めてドイツ人支配に反対する民族主義に導いていったのだと解説している。

   本書が最も力説する点は、これらの民族問題が帝国の停滞によってでなく、立憲化された19世紀後半の帝国の社会的、経済的発展によって育成されていったことである。著者は、その故に、従来軽視されてきた、ハプスブルク帝国の近代化を成功させたドイツ人自由派を評価するべきだと言っている。啓蒙主義はリベラリズム、近代化、民族問題を招いて帝国の統一性への脅威をもたらしたが、それらを統括するべき当の帝国は、19世紀前半のメッテルニヒ体制以降、保守化して改革の意欲を失っていた。著者はこの官民対比を皮肉って、副題を「啓蒙主義から幻滅へ」とつけているのである。ともすると抽象的になりがちなリベラリズムから民族主義への連続性を、具体的な事象を多く参照して冷徹に詳説した、近代中欧、東欧政治思潮史の名指南書。(川村清夫)