ニプルの、いつも言い足りなそうなキアロスクロの世界になじみのない読者は、この本を読みこなすのに多少骨が折れるかもしれない(このシリーズの最初の2作「Stories」と「Cheap Novelties」のほうが取っつきやすそうだ)。しかしカッチャーのストリップの特徴が最もよく表れているのは「Beauty Supply District」だ。
「Expired Coupon Redeemer(期限切れクーポン買戻し人)」の共同墓地で墓掘り競争をするセミプロの墓掘り屋たちの話や、安モノの筆記用具が、詩的インスピレーションをはるかにしのいで素晴らしい作品を作り出してきたいきさつがドラッグストアで偶然わかる話など、カッチャーの真骨頂発揮が満喫できる。しかし、とにかくページをめくってみるまでは何だかわかるまい。
ニューヨーク・タイムズ誌の書評でエドワード・ソレルは『Julius Knipl, Real Estate Photographer』を「80年あまり昔の“クレイジー・キャッツ”以来の最高に独創的なコミック・ストリップ」とよんでいる。この評価を聞くだけでもこのストリップのすごさはよくわかる。しかし、この作品のユニークさを十分に理解して満喫するには、とにかく実際にページをめくってみるしかない。