イラストレーターでもある著者は今まで出会ってきた世界中の個性豊かな人々を素晴らしい洞察力をもって描き切る。ページをめくるたびに著者と同行しているわけでもないのになぜか懐かしさが増していく。おそらくそれは、著者の感性豊かなイラストを通じて自分が国内外を問わず今までどこかで出会ってきた『旅のそなた』たちが蘇ってくるからではないであろうか。一期一会を大切にしたいと思わずにはいられなくなった。
インドで「ムトゥ 踊るマハラジャ」のミーナさんを呼んで会ってしまった一件も嘘みたいな話だが、「ミーナさんに会ったのは偶然じゃありません。あなたがインドまで飛行機で来て、自分の足でここまで着たからでしょ」と言った、彼らを引き会わせたインド人の言葉は非常に重い。旅を愛する者全員がうなずく、説得力に満ちた言葉である。旅行記や滞在記のたぐいは巷に山ほど出ているし、中には本人の糧となっておらずに自己満足に終始しているものもあるが、この本は一味違う。
「訪問地域にかたよりがある」とは著者の言だが、登場人物のバリエーションは非常に幅広い。いい本だ。だから旅はやめられないのだ。