今後の皇室と日本人の独自性を考える機会となる本
★★★★★
素直に感動し、心の洗われる思いがした、というのが読後感である。
内容は、昭和天皇と平成天皇の生き様を資料に忠実に、時には著者の解釈を入れながら書いたものであるが、平成天皇の事跡や考え方に主眼を置いている。
著者はこの本の中で、明治、大正、昭和は「君主制下の軍事主導体制」の時代であり、戦後も昭和天皇の在位中は「君主制下の民主主義体制」であった、一方で平成天皇の時代に初めて「民主主義体制下の君主制」となった、と述べている。それを反映するかのように、私自身も平成天皇が皇太子であった頃の印象として、なんとなく頼りない、という感じを抱いた頃があった。「皇太子殿下は人気がない」という風潮が昭和四十八年頃に流布していたことや、その理由は昭和天皇と比べてカリスマ性が不足していたことにある、などを思い出しもした。血気盛んで物事を短絡的に見がちだった若い頃には、そういう意見に同調していた自分が居たような気がする。
しかし、この本を読むに連れて、平成天皇が努めてカリスマ性を否定する生き様を貫いていたということを知った、というよりも自分の脳裏に浮かんだ時々の天皇陛下と皇后陛下の映像を作者が文章で裏付けてくれた、ということである。そのことは、昭和天皇が君主として避けることの出来なかった戦争と、その被害者に対して、親=昭和天皇に代わって鎮魂する、という行為であり(沖縄やサイパンへの行幸)、被災者へのお見舞いに文字通り自ら手を差し伸べて労る、という挙動によって知ることが出来る。こういう深いところにある天皇・皇后両陛下の慈愛を著者はよく観察して汲み取り、そして丁寧に書き出してくれたと思う。
この本を読んで、今後皇室をどう考えていけばよいのかの手がかりを得たような気がする。更には、外国とは違った風土と国民性をもつ日本に、つくづく生まれてよかったと思い、日本人としての独自性を再考する機会を与えられたようにも思う。