藤原新也健在
★★★★★
大変、優れた一篇がある。 それだけでも、この本は購入の価値がある。
ああこれは山川方夫では
★★★★★
一気に後書きまで読み終えて、乾いた現代には「ちょっとイイお話」が潤いになるのだなと思った途端同じような読後感が蘇った。それは山川方夫のショートショート集(「親しい友人たち」講談社文庫だったのですが今は絶版でしょう)。特に「カハタレバナ」の鮮やかなラストは山川の「夏の葬列」の結末の哀切さと重なる。もちろんそれはどちらもが「人生の現実を凝視した時、当然、現れ出てくるもの」(「親しい友人たち」文庫解説からの引用です)を表徴した結果なのだと思います。大学時代に「東京漂流」と「メメントモリ」に衝撃を受けて以来30年近く経って高校時代に読んだ文庫本とが交錯するように思えて尚更感慨深い。本書についていえば挿入された藤原調の写真がどれも各編にピッタリで良いです。見上げた桜など目眩を覚えます。私にとって前の2冊と一緒に書棚に並べる本になりました。
「哀しみ」という救い
★★★★★
「人間の一生はたくさんの哀しみや苦しみに彩られながらも、その哀しみや苦しみの彩りによってさえ人間は救われ癒されるのだという、私の生きることへの想いや信念がおのずと滲み出ているように思う。」(あとがき)
本書での著者の主張は、この言葉に要約されるでしょう。
本書の物語は、決して明るい話ではありません。気になる人、親しい人、愛する人が、様々な事情によって、自分から離れてしまう、それを哀しく、苦しく思う、そんなお話です。
にもかかわらず、確かに、読み終わった後、何か、温かいものが、胸に残りました。
どんな世の中になっても、人は人とつながっていたい、人を想っていたい、そのような、人と人とがつながろうとするときに発せられる暖かさが、本書のどのお話からも感じられるからでしょう。
いい本でした。これからもときどき読み返そうと思います。
人が生きた匂い
★★★★☆
ある意味で隙だらけに思える。が、芸術的な密度や完成度やメッセージとか・・、
およそ自我拡大がもたらすかもしれない作家という性の、ぎらつく動機などとは無縁でしか見えない世界もある。
また、企てられた人生にぽっかり空く、無計画な休暇にしか表れない物語がある。
ひとつひとつのエピソードの中にあるのは、日差しの影の軒下にある、気づかず見過ごす蜘蛛の糸の絡まる世界の細部。
それは、繰り返す日常から、うつろな眼球の視界からも隠されている。
観なければ観なかったのだ、というような、時間の中を通り過ぎる、しかし確実に存在していたという人と人の間のドラマ。
人は生きていて、そして揺らいだのだ。
日常にありふれてもいるだろう。
しかし凝らして覗けば謎めいて、幸不幸など誰も判らない人の一生の帰結の様々な余韻。
たしかに人が生きた匂いがする。
リアルな冷徹な現実と人と人のつながりとのコントラスト
★★★★★
あまり好ましくないことだけれども、日々を重ねれば重ねるほど、生きていくのがつらいときがある。
それに、あまりにも悲しすぎる話に遭遇することが増えている。
この本は、リアリティにあふれた応援歌と言える。
心の栄養剤として、自分を見つめるきっかけとして、一つの座標軸を与えてくれるエッセイにあふれている。
きっと、どれか一つ、心に住み着くエッセイに出会えると思います。
秋という季節に読む本としては、最適だと思います。分量もちょうど良く、気軽に読むことができます。
一つの道しるべとして、大切にしたい一冊となりました。