宮脇俊三の姿
★★★☆☆
2006年にグラフ社から出た単行本の文庫化。
著者は鉄道旅行記家として著名な宮脇俊三の長女にあたる人物。
娘から見た父親、家族の一員としての宮脇俊三が描かれている。
鉄道旅行記を読んできた読者からすると、ここに描かれている宮脇俊三の姿は結構ショッキングなものだと思う。かなり粗暴であり、晩年は酒に溺れる日々を過ごしているのだ。鉄道旅行の側面も、家族とは切り離されて存在していたようで、彼の旅する姿はあまり見えてこない。
そうした姿を知ってしまうということは、ちょっと哀しい。
灯子さんの文章も、あまり優れているとは言えない。
興味深かったのは、編集者としての宮脇俊三である。娘の文章にも執拗に注文を付け、「魅力のある文」にしていこうとする。もちろん、自身の文にもこだわりがあったのだろう。そうしたなかから、あの名文が生まれたのだなと納得させられた。
大紀行作家の舞台裏
★★★★☆
感情をあまり表に出さず、ただ飄々と鉄道を描写していた宮脇俊三氏。
鉄道と宮脇氏の世界の裏側にあった家族の人間模様や日常を、率直に著したエッセイである。
紳士的、知的で冷静な印象が強かった宮脇氏の文章であるが、その裏にあった葛藤や苦しみを暴かれてしまうのは、手品の種明かしのようでもったいない気もする。
それでも親子の交流の暖かさ、宮脇氏の作品へのこだわり等のエピソードが盛り込まれ、宮脇俊三氏のファンであれば間違いなく楽しめる一冊である。
また、家庭生活と仕事を営みながらも、時間とお金のかかる鉄道旅行という一大趣味の道を生涯頑固に貫き通した、一人の男性の物語としても興味深く読める。
宮脇ファン必読
★★★☆☆
宮脇俊三のファンとして、非常に興味深く一気に読んだ。
わがままだったり、幼稚だったり、情けない姿も描かれているが、
私はがっかりはしなかった。むしろ人間くさい面を見ることができ
ますます好きになったといってもいい。
宮脇が「自分は名文家だと自負していた」というくだりは、なるほどと
思った。
もちろん私はそう思ってきたが、ひょうひょうとした文体の底に
作家としての大きな自信があったことを知った。
だからこそ、思うような文章が書けなくなった自分に対する失望も
大きかったことだろう。
いまはただ、宮脇さん、いい本をたくさん書いてくれてありがとうという
気持だ。
宮脇俊三先生のコトバ
★★★★★
私は鉄道を使った旅行が大好きです。必然的に、宮脇俊三先生の鉄道紀行文学にも接するようになりました。写真などは用いず、ひたすら文章のみで旅の情景が蘇えらせる筆力に、どんどん惹かれ、たくさんの作品を読み重ねてきました。
しかし、先生の作品を読んだのみでは、先生の日常生活や性向は十分には分からないでしょう。そこで、娘さんによるこの随想です。父として、家庭人として、さらには編集者の先輩としての宮脇俊三先生の"言葉"がたくさん語られ、まるで先生がこの作品の中に生きておられるように思いました。
宮脇俊三の真実を知るのははたして?
★★★☆☆
晩年の宮脇俊三がアル中であったことばかり書いてあるような本で読まなかった方が、宮脇俊三の本の印象をよく保つためには良かったと感ずる。が、60歳になるまでの作品を改めて読めば、そこはかとなきユーモアが漂っていて名作であることは確かで、その後に筆力が衰えたということか。しかし、愛読書である「古代史紀行」には、わざわざ金と時間をかけて来て意味があるかと自問自答し、「無意味と意義有りとの間を気持がさまよっているが、夕べともなれば酒が飲みたくなる」(p.117)とあって、旅をしつつこんなことを繰り返している内に、結局旅は止めて酒だけになったのではないかと推察している。一回り年下の当方も、いづれそんな形になってみたいとも思ったりしている。