サイパンで読むシベリア
★★★★★
この本を読んだのは サイパンだった。1994年のことだ
言うまでもないが 北マリアナ連邦のサイパンは熱帯である。海は青いし 陸では火炎樹が咲き乱れている。Tシャツと短パンでビーチを歩いた。バドワイザーを飲みながら。
そんな土地で シベリアの深い森の話に読み耽ったというとも ミスマッチとしか言いようがない。しかし 言葉通り 読み耽ったのを覚えている。深い森の中を 虎やイノシシが闊歩する。人間も そこでは弱い生き物に過ぎない。それでも銃という道具でのしあがっていく。
そんな話だったと覚えている。
サイパンは太平洋戦争の戦場だ。多くの日本人と現地の方が亡くなった場所である。バンザイクリフという 痛ましい名前の岬にも出かけた。そんな場所にも本書を抱えた。シベリアの深い森を想いながら。
密林の旅
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「偉大なる王」という作品で日本でも良く知られている、親日家のロシア人作家バイコフが、猟師達の北満州での生活や、密林で暮らす虎・鹿・猟犬など動物の細やかな描写,朝鮮人参彫りや鳥や虎にまつわる伝承の紹介など、そこに生きる人々の色々なエピソードを交えて、厳しくも豊かなシベリアタイガの世界を生き生きと描いています。
今はもう失われつつある北満州の本当の手付かずの自然の描写は素晴らしく、月夜の川岸での虎との遭遇のエピソードなどは,自分があたかもその中にいるような臨場感に溢れる文章で描かれています。
少し前の時代の同じ極東地域を舞台にした、アルセーニエフの探検紀行記であるデルスウ・ウザーラも秀作ですが、こちらの方が物語になっている分読みやすいかもしれません。
遠くへ行ってみたい、本物の大自然に触れてみたいと思われる方が、想像力の翼を広げるには、もってこいの一冊ですよ。