再読しても面白かった。
★★★★★
今年映画化されるのを機会に「ノルウェイの森」を読み直すことにしたが、その前に「ノルウェイの森」を書いた頃のエッセイである「遠い太鼓」も再読したくなった。以前は借りて読んだので手元になく購入した。
ギリシャの島の生活、ローマの道路事情、トスカーナの小さなホテル等々、旅行記としても魅力が溢れている。特に食べ物と、お酒の描写は、小説同様本当にそそられる。その上、なぜ日本を離れたか、そして、日本を離れた成果の、ギリシャとローマで書き上げた「ノルウェイの森」と「ダンス・ダンス・ダンス」についての記述は特に興味深かった。
小説よりもこちらの方が数段好み
★★★★☆
80年代後半、ノルウェイの森がベストセラーランキングに毎週上がっていたこと覚えている。
あのころ日本は正にバブルの絶頂期だった。
そうか、そのとき村上春樹はユーロにいたのか。
ワインを買いに車に乗って、ワインを1本空けてから、車を運転して家に帰ったのか。書き物道具が原稿用紙からワープロに変わっていったのはこの頃だったのか。ところで、奥さんは何をしていたんだろう?(軽い夫婦喧嘩てきトピックしかでてこないけど)
そして、村上春樹が見たギリシャを、イタリアを、ユーロの国々を文章にするとこうなるのか。
村上作品にあって、リアリティを感じる面白さがありました。30代以降でしたらとくにおススメ。
紀行文学の傑作
★★★★★
村上春樹の「遠い太鼓」です。紀行文学の傑作と断言いたします。
なぜなら、本書は出張の新幹線の中や通勤電車の中だと非常に読み進めることが出来ますが、家の中で読むと全くページが進みません。文章から「旅」という風や空気感が溢れ出しているからかもしれません。ですから僅かな、所謂「移動」という旅でもその空気感が心を支配し、文章との一体感を作り出してくれるからかもしれません。ですから本書は「旅」の中で読むと非常に効果を発揮すると思います。
その中で語られている文体は「村上節」です。ですから私達は彼のまるで「物語」の中で旅をしている錯覚に陥ります。でもその錯覚はうれしい錯覚で、ヨーロッパの空気感を胸いっぱい吸い込むことができます。
そんな本書は500ページ越えの大作ですので、ゆっくり読み進めても構いません。作者と一緒に旅の空気を吸い込みましょう。
こういうのもいいかもしれない
★★★★☆
ギリシャ、イタリアその他を三年にわたって旅したことを綴ったエッセイです。わりとポンと投げ出すように力を抜いて書かれて、こういうあっさりしたのもいいかもしれません。
シシリーでジョギングしているときに犬に怒鳴りつけるくだりはユーモラスであると同時にびっくりしました。この作者が怒鳴るというのは想像しがたい。
ドイツに捕まえられた体験を「よかった」という元兵隊のイタリア人。
クレタ島で乗ることになった飲酒運転のバス。
ギリシャで平和活動のためにマラソン大会を開いて殺されたラブラスキという人の残したメッセージは、常人にはなかなか言えないものです。
しかし一番心に残ったのは、「ノルウェイの森」が売れたことに対する当人の感想です。
「すごく不思議なのだけれど、小説が十万部売れているときには、僕は多くの人に愛され、好まれ、支持されているように感じていた。でも「ノルウェイの森」を百何十万部も売ったことで、僕は自分がひどく孤独になったように感じた。そして自分が多くの人々に憎まれ嫌われているように感じた。どうしてだろう。表面的には何もかもがうまく行っているように見えたが、実際にはそれは僕にとっては精神的にいちばんきつい時期だった。いくつか嫌なこと、つまらないこともあったし、それでずいぶん気持ちも冷えこんでしまった。今になってふりかえってみればわかるのだけれど、結局のところ僕はそういう立場に立つことに向いていなかったのだろう。そういう性格でもないし、おそらくそういう器でもなかった。」
「ノルウェイの森」の頃
★★★☆☆
村上春樹の紀行文。
正確には紀行文ではなく、紀行エッセイ。
紀行文も紀行エッセイも同じようなものだが、村上春樹の紀行「エッセイ」には文体の「スマートさ」から離れたユーモアが感じられる。
村上春樹が1986年秋から1989年秋までの3年間を暮らした、ギリシアとイタリア。
欧州での生活を始めた初期のイタリアの文章からは、言いようもない彼の疲労が感じ取れる。
そして読む者も疲労を感じてしまう。
このままこの分厚い本を読み進めて良いのやら・・・
しかし、欧州での生活が進むにつれ彼の筆も滑らかにすべり始める。
描写にユーモアが混じり始める。
読む者も彼の生活を想像上での追体験をすることにより、楽しさを共有することになる。
あとは彼独特の文章で一気に最後まで読ませてしまう。
村上春樹ファンにとっては、彼が欧州で過ごしたこの3年間に生まれた作品に興味が向く。
彼がこの3年間に仕上げた作品は「ノルウェイの森」と「ダンス・ダンス・ダンス」。
そうか、あの頃彼は欧州にいたのだ。
正確な日時などどうでも良い。
あの作品をタイムリーに読んだ者なら、あの時代感覚は肌で覚えている。
あの作品は欧州の空気の中で書かれていた。
読む者が「一度は訪れてみたい」という感想を「抱かない」のが彼の紀行エッセイ。
しかしあとがきで書かれているが、二度と行きたくないと思いつつ、時間が経つとまた訪れてみたくなるのが彼の行った場所。
言われてみると、いつか読み返してみたくなるのも村上春樹の紀行エッセイである。