繁栄の影にかくれたイギリスのどん底
★★★★★
ビクトリア朝の優雅で贅沢な世界があったイギリスの、もう一つの側面を余すところなく描いた作品。だいたいが、19世紀のイギリス人作家っていうのは、中流かそれ以上の生活しか描いてはないのではないだろうか? それをギッシングは、日々の生活にさえ困る人々を描くことによって、何かを告発したかったのだろうか? ギッシング自身が、中流以下の生活に身を置きながら執筆したというこの作品は、もどかしいほどに何もかもが上手くいかない。なんとなく、レ・ミゼラブルを彷彿とさせる作品でもある。貧しさ故に叫び出す魂の声が聞こえるようだった。長編小説で読むのに少し時間がかかるが、人間の尊厳とは一体何なのかを考えさせられる小説であることは間違いない。訳者によるギッシングの解説も簡潔にして明解。