こういう源氏物語もあっていい。
★★★★★
有名作家が何人も試みて、それぞれのスタイルで書いてきた「源氏物語」の現代語訳。
林真理子もついに、そういう大御所的ライフワークに参戦!とあいなりました。
タイトルでおわかりのように、源氏を愛しすぎて生霊になってしまった貴婦人・
六条御息所が、林真理子にかわって源氏の生涯を語っていきます。身分の高い家に
生まれ、東宮妃までのぼった六条にかかると、源氏の父である桐壷帝と、身分の低い更衣の恋は、
はしたないものであり、度を越した帝の間違いでもあった、という解釈になります。
帝と身分違いの更衣のロマンスで生まれた美しい皇子、というおとぎ話感がいきなり
良い意味で破壊されます。
源氏と女人の閨まで、御息所の生霊は自由に飛び、その愛し合う場面までしっかり見とどけ
嫉妬というスパイスをふりかけて、私たちに届けてくれます。
みやびやかさやせつなさ、絢爛たる感じ、という理由で「源氏物語」を愛する人たちには
もしかしたら「やりすぎ」と言われるかもしれない林源氏ですが、私は、それぞれの
人物が、汗を流し、涙を流し、汚ない感情も時には抱く生身の人間として描かれていて
そのリアルっぽさがとても面白く読めました。続きが楽しみです
(この巻には、若紫を妻にするあたりまでが描かれてます)。
これなら、須磨返し(須磨のあたりで読むのをやめちゃう現象。よくあることらしい)を
くらって挫折することなく、最後まで読めそうです。
宇治十帖までやってもらいたいなぁ(身分の低い浮舟という女性をふたりの貴公子が
奪い合うなんて、林真理子が書いたら絶対面白いと思う)。