菌類の細かい分類体系には踏み込まず、5界説や8界説を引用して生物
全体のなかでの菌類という生物がどのような特徴をもった生物であるか
を概説し、日常生活の中で知らず知らずに菌類に遭遇している例などを
引きながら、森の菌類の多様性、生物間相互作用、保全へと話題が進ん
でいく本書の構成は、菌類に馴染みがない読者にも途中で挫折すること
なく一気に読み終えることができるであろう。また、カラー図版を含め
て図版が比較的多く使われているのは、読者の内容理解の助けになるで
あろう。
本書では森の菌類をめぐる生物間相互作用を取り上げ3章が一番読み応
えがあった。ナラタケ、スギ黒点枝枯病、マツタケの菌根、絹皮病、エ
ンドファイト、サナギタケ、送粉共生、レンゲツツジ芽枯病、暗色雪腐
病、苗立枯病、木材腐朽菌、マツ枯れ、ニレオランダ立枯病、クリ胴枯
病、五葉マツ発疹さび病が本章で取り上げられ、各テーマごとに生物間
の相互作用が手際よく纏められている。菌類と他の生物が互いに関係し
ないながら、森の中で生活しているのだということを改めて認識させて
くれる。また、生物としての菌類を再認識させてもくれる。
本書で特筆すべきことは、森の菌類の保全について1章を当てているこ
とである。菌類の保全について注目が高まっているこの時期に。菌類の
保全についてある程度まとまった形でその理念や実務について解説して
くれたのは助かる。
皆さんに一読を強く勧めたい。