啄木、その夢の跡
★★★★☆
啄木というと、『一握の砂』や『悲しき玩具』をはじめとする歌集(和歌)にどうしても意識が向いてしまうが、その詩の世界も、初期の文語体による修辞の世界からその若き晩年の口語体による平明な世界に至る彼の成熟を物語って余りある。
個人的には、「広き階段とバルコンと明るき書斎」を備えた理想の家を啄木が夢想する「家」なる一編(146〜150頁)が、生涯おそらく自らの真に欲するものを求めても得られなかった彼の無念さ哀切さを表現しているようにも思われ、胸を打たれた。
その他、「変な夢を見た。」ではじまる「白い鳥、血の海」などの散文詩や「はてしなき議論の後」(されど、誰一人、握りしめたる拳に卓をたたきて、/‘V NAROD!’と叫び出づるものなし)、「ココアのひと匙」(われは知る、テロリストの/かなしき心を)、「飛行機」(見よ、今日も、かの蒼空に/飛行機の高く飛べるを)などの有名詩も、日本語による珠玉の作品としてやはり一読に値する。
啄木世界の多面さを知るためにも、他の諸作品と是非併読したい一冊であると思う。