穏やかに楽しめるワンホーンアルバム
★★★★★
寺島レコード初のワンホーンアルバムでテナーサックスと聞けば、寺島さんの好みを知る人なら、野太くかすれまくったサウンドの連発を予想する向きもあるでしょうが、それだとかなりアテがはずれるかもしれません。
松尾明トリオをバックにしているにもかかわらず、全編ガッツ溢れてという感じでもなく、時折は適度なカスれもありますが、なめらかな美音を楽しませつつ、穏やかに進行していきます。
高橋康廣さんは、テナーサックスのほかにフルートやオカリナも演奏し、Take10のアレンジも主に担当するなど器用さも持ち合わせた職人気質の音楽家で、伸びやかな音質と安定したテクニックを持ちつつ、俺が俺がと目立ちたがるようなことはなく、さりげなく他のメンバーを引き立てる粋なミュージシャンです。
そんな高橋さんの初リーダー作ですから、全体に地味ながら気持ちよく聴けるアルバムに仕上がりました。
1曲目の「リンゴの木の下で」は、この曲のメロディにさほど思い入れの無い人にとってはインパクトの弱い立ち上がりかもしれません。しかし、2曲目Wiltons Moodでイキのいいジャズサウンド全開となりますからだいじょうぶです。
寺島レコードですから、全体にシンバルとベースの音がたっぷり楽しめるのは当然ですが、寺村さんのピアノもいいところで引き立ててもらっていて颯爽としたソロが楽しめます。テナーサックスのリーダー作と言うより、カルテットとしてのアンサンブル重視の作品ということができるでしょう。
松尾明さんからの本作の誘いに「静かに暮らしているので、そっとしておいて下さい。」と応えたという高橋康廣さん。そんな高橋さんの個性が発揮された本作は、穏やかに楽しめるまとまりの良いワンホーンアルバムとなっています。
なお、ジャケットはいつもの寺島レコードのパターンで悪くありませんが、高橋さんは渋い中年でルックスもかなりカッコいいオジサンなので、彼の写真をメインにしたら女性ファンに受けたのではないかと思います。