これは1954-57年の録音で、どれもが当時としては驚異的な技巧の切れ味を示している。VoxBoxのそれほど良いとはいえない録音状態でも、輝かしく千変万化する音色はまさにギトリスならでは。特に2枚目に収録されているバルトーク協No.2、無伴奏ソナタとメンデルスゾーン協はどれも大変な名演。バルトーク協No.2などは、ほぼ同時期に録音されたスターン(Sony)の名演が霞んで聴こえるほど。例えば、1楽章に何回か登場する下降グリッサンドの部分ではギトリスしかかけようと思わないような異様なヴィブラートをかけており、不気味な効果をあげている。ほかの難技巧部分でも臆することなく弾き切り、全く玉砕しない。曲に対する集中度の高さについても、みどりやチョンも真っ青レベル。更に音程の取り方も素晴らしい。
これを聴くと、ピアノ・リスナーならアルゲリッチの若い頃の録音が思い出されるだろう。本当の意味でのヴィルテュオジティ、スコアの読みの的確さ、想像力の飛翔振りはまさに天才そのものだ。
一回この演奏を聴いてしまうと、他の人の演奏がつまらなくなり聴けなくなるのでご注意を。