見据えつづけた思いに心を寄せて
★★★★☆
新川和江によると「戦後現代詩の長女」と呼ばれた茨木のり子、先日(2月19日)にご逝去されました。その報に接したとき、またひとつ現代詩を支えてきた巨星が逝ってしまったのだなと大きな衝撃を受けました。川崎洋と創刊した同人誌「櫂」は谷川俊太郎、大岡信などの戦後詩人を多く輩出しており、まさに屋台骨を支えた長女と言える存在でした。
この詩集は茨木のり子の第3詩集にあたり、初版は思潮社より1965年に刊行されています。そして2001年に童話社より復刊されたものです。
この詩集で鎮魂するのは父(花の名)、初代ユリイカの伊達得夫(本の街にて)、梅蘭芳(うしろめたい拍手)、そして劉連仁(りゅうりぇんれんの物語)であり、第二次世界大戦の被害者となった総ての御霊です。自らの在り様とみつめ、悲惨な戦争の結末を見据えての詩篇、目を背けがちな読者の心を叱咤激励するようです。
その他では、この詩集の代表的作品と言える「汲む」、個人的に良いなあと感じた「私のカメラ」他全14遍の詩が収められています。
どうしても述べなければならないのは戦中、日本が行った戦争犯罪行為を告発する叙事詩ともいえる「りゅうりぇんれんの物語」です。思想的な観点からでは無く人としての根源より理想と思えた毛沢東による中国の開放。戦中日本軍により踏み躙られた農村が生き生きと描かれていますが、昨今の中国国内の情勢を眺めていると、どうやら今度は開発の名のもと、僅かな立退き料と引き換えに田畑を奪われ、経済格差に喘ぐ中国農村部の悲惨さは目を被うばかりのようです。
この事実について天国へ逝かれた詩人の思うところを問いただしたくなる気持ちは募るばかりです。