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もめん随筆 (中公文庫)

価格: ¥940
カテゴリ: 文庫
ブランド: 中央公論新社
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しなやかで強かな ★★★★★
 40数年前の中学校の国語教科書に森田たまの随筆が掲載されていた。随筆の中身は忘れてしまったが、随筆家の名前と『もめん随筆』という著書のあることは何故だかうすぼんやりと覚えていた。40数年前の遠い記憶を手掛かりに、幻の随筆家の幻の著書にやっと出あったという気持ちである。
 読後感は、何故こんなに面白い文章の書き手が忘れられたのだろうか、勿体ない、というのが、まず一番の感想である。この著者に限らず、命尽きれば作品とともにその存在も人々の記憶から消えていくのは、大作家あるいは文豪と呼ばれるほどではない作家の宿命なのだろうか。
 50編ほどの作品が収録されているが、どれもが読み応えがある。鋭い感性、細やかな観察、深い洞察をどの文章にも感じる。文章は明晰にして機能的、とにかく言いきって湿ったところがない。余情、余韻を重んじる随筆を読みなれた目からは、ドライ過ぎるようにも見えるが、そこが新鮮でもある。
 大正から昭和にかけて執筆され、多くは日常生活から題材が得られているから時代の風俗が深く刻印されている。それが、この作家をして死後忘却されるようになった一つの理由かもしれないが、平成の今日読むと、その風俗描写が興味深くて貴重な記録のように思える。
 着物がまだ女性の衣服の主流を占めていた時代である。着物にまつわる話題が多く、私などは言葉からしてほとんど理解できないのだが、女性にとって着物が持つ意味の重さはよく分かる。世代を継いで女性の美意識を涵養して、それへの愛情あるいはこだわりは、洋服の比ではないだろうということが行間から伝わる。女中、書生、妾、芸者なども頻繁に登場する。今ではもはや死語となったこれらの言葉で展開する物語は、濃い人間関係の世界を彷彿とさせる。
 著者の関心は一貫して人間にあって、描かれるのは身辺の出来事である。高度経済成長前の生活の記憶のある1950年代生まれの私には郷愁を誘うシーンもある。風俗に今昔の相違はあるが、著者の感性、価値観はまったく古さを感じさせない。しなやかに強かに生きる自立した女性の存在を強く印象づける。
残り2作も出版してください。 ★★★☆☆
著者は明治に生まれて昭和45年に没した女流作家。
小説も著したが、随筆の方が評判が高かったようだ。講談社からは「もめん随筆」「きもの随筆」「絹の随筆」の随筆全集が刊行されていたが、現在入手できるのはこの文庫のみのようだ。
「もめん随筆」は3部作の中では文章のこなれなさが目立つ時期で、出世作でもある「着物・好色」以外には読み応えのあるものがない。残りの2作も文庫で出して欲しい。

同時代の随筆家というと幸田文が著名。幸田文は東京で生まれ暮らし、父の裏方を一心に勤めていたひとで、根付いた強さを感じさせる。森田たまは本人も文中で言うとおり「良く言えば素直、悪くいえばふわふわして」おり、文にも粘り強さがない。時折光る着眼があるが、それがきらと光っただけで終わってしまう。こちらに迫るものがない。見たものを「私はこう感じたの」と伝えるだけだ。甘い。
しかし軽い気持ちで読み流せる良さがある。お風呂で半身浴しながら読むのに最適。

また当時の風俗を知るにはとても参考になる。つきあいのあった作家や有名人の名前が出てくる。
戦前の東京の女学生の髪型、衣装などに関する記述もおもしろかった。