「『どぎついもの』と『とりとめのないもの』、残忍さと『分かりやすい優しさ』、過剰と欠落―こうした対立するものが融合したり和解することなく共存しているのが現代社会であると…(後略)」(p.257)という見方は非常に鋭いと思う。さまざまな世界が混じらず、共存する。そして、「分かりやすい優しさ」というものの怖さを意識した。
「考えてみれば、我々はひとりひとりが孤島のようなもので、なるほど海底をたどってみればお互いに繋がり合っているかもしれないけれど、所詮は隔絶した存在でしかない。ときにはある島にしか棲息しない『奇妙な生物』が精神科いによって発見されたりする」(p.163)という指摘は面白いし、わかりやすい。僕の人間にとって抱いているイメージと重なる部分があった。
その他、美人は幻想やファンタジーに近い(p.198)など、に日常と学問の中間くらいに立ち、わかりやすく伝えてくれる。
個人的には「コップの割れる瞬間の恐怖」のエッセイが大好きです。味噌汁の中の死んだシジミをしみじみと眺め、その中で何が起こってしまったのかを考えてしまい、たぶん緑色に変色したであろう貝の肉を連想し、ちょっと怖がる春日武彦先生、ステキですねー