神をめぐるパンセ
★★★★★
訳詩の選択にあたっては、翻訳者の趣向もさることながら、リルケのリルケ的なるもの、独自の感覚、
感受性があらゆる事物のなに入り込み、共感しうたい上げようとする意志、(運命肯定)を読者に味読
して欲しいという訳者の強い意思をかんじます。
神という言葉をつかい表象すればいとも簡単に言い表せますが、それではいかにも古めかしい。
われわれは充分な時間をかけて最後のさいごまで自分でありつづけ、みずからの変身をまつべきではな
いのか。眼を閉じながら。
「その者はまるで老人のように過去の人になっています
彼にはもはや何事も現われず どんな一日も訪れて来ません」…27頁
もしかしたら、今日、いまから、すぐに、だれでもが、別人になれるのではありませんか?
また生きている限り、すべての事象は時空を超えてわたしたちにつながっているのではないか?
なにものにも囚われず根源的なところから掴みかかろうとするリルケの原初的な感性は、 現代人には
ほとんど失われたものである。リルケの詩人としての使命と自覚、自信が随所にあらわれている。あえ
て超抒情詩人。物の詩人。
今回読みなおしてみると、日本語もほとんど古びていない。偉大な訳業の成果にあらためて感謝する。
富士川氏はただの研究者ではなかった。
なお、余談ではありますが、『リルケの詩集』というすばらしい歌がありました。
姉妹デュオ(チューインガム)はどなたの訳詩集をひもとかれたのでしょう。歌のなかでは「リルケの詩
集は いまどこへ」放擲され青春の1ページとなって終わってしまっていますが。悲しいですね。
最初に読んだリルケの詩
★★★★★
リルケの「若き詩人への手紙」に影響されて、リルケの詩作品を読んだのは、片山敏彦さんの翻訳だった。
片山さんは本人が詩人だけあって、軽快で美しい訳だったので、判らないなりに親しめた。
「片山敏彦著作集」が出版されて、買おうかなと思ったこともあるが、その頃はもう文学からは離れてしまっていたので、そのままになってしまった。
今でも、名訳だと思っている。
待て……この味わい………
★★★☆☆
本作は自分にとって、バイロンほどの熱狂や情熱、シェリーほどの美しさを感じ取れるものではありませんでした。
訳が直訳過ぎるのか、独特なのか、或いはリルケ自身がそういった文体を用いているのか、
自分には皆目判別がつきませんが、接続詞の前後の繋がりに理解し辛い箇所が多数見受けられる事や、
多用される倒置、変則的な節の区切り等、一見しただけでは非常に詩の内容が捉え辛いのです。
しかし。
『待て……この味わい………』
上記は本レビューのタイトルであり、
オルフォイスへのソネットに収録されている詩のタイトルであり、何より偽らざる自分の素直な読感でもあります。
冒頭で列挙した点を差し引いても惹き付けられた事は紛れも無い事実です。
あくまで形式的な詩、概念的な表現に囚われていた自分にとって本作は衝撃的でした。
なにせそこには、型に囚われない自由な表現、溢れんばかりの叙情が多分に含まれているのですから。
最晩年の作は、人類史上のある「到達点」を示している。
★★★★★
晩年、心の危機を乗り越えたリルケは、「オルフォイスへのソネット」を書く。これは詩人としての決意表明であって、本物の真剣さを獲得した彼は、聴衆に向かって呼びかける。「池に映ったもののすがたが、しばしば我らから消えようと、その姿をば忘れるな」。心で見た姿こそが、真の姿なのだ。水面が揺れると、映し出された像は歪み、波に呑まれる。それと同様に、心の状態が変化すると、心で捉えていたはずのものはたちまち見えなくなる。だが、忘れるな、「それ」はあるのだ。この戒めを、リルケ自身、堅く護りとおしたに違いない。最晩年の作は全く卓絶している。「背伸びをした巨人の夏は 既に感じている 老いた胡桃の樹の中で その青春の衝動を」「一晩中 ナイチンゲールは歌っている 彼らの感情の恍惚と それから 冷ややかな星に立ちまさる 彼らの優越とを」。これらを「擬人法」と読むのは単なる見当違いであろう。リルケは自然の内部に入り込んで歌っているので、どこまでが彼自身の感情で、どこまでが「自然」それ自体の感情なのか、区別できないほどだ。グルジェフの言う、客観的感情、これらの詩篇はまさにそれを達成しているのだ。本書もまた、万人にお奨めできる。(特に科学者は絶対に読まねばならない。)富士川英郎氏からの、そして新潮社とリルケからの、言葉の贈り物だ。
言葉の通じる親友のような。
★★★★★
丁寧な言葉の重なりを紐解いていく過程は、無条件に楽しく、
自分の心の奥底に潜む何かに触れ、開放されるような清涼感がある。
彼の詩は呟きなどではなく、それを読む誰か、即ち我々読者の視線に
まっすぐぶつかって来る。
普遍的な強さを持ち、個々の内部で繰り広げられる伸びしろを持つ
やわらかさがある。お買い得すぎました。