「ナマコ」をめぐる学術的冒険記!
★★★★★
見事な本である。本書は「ナマコ研究」、すなわちナマコをめぐる諸相を読み解いたものである。しかし本書は、狭義の研究内容をまとめた学術書にとどまるものではない。それはナマコというものの「ありかた」をつうじて、私たちの生きる現代社会によこたわる、「生物資源は誰のものか」、「生物多様性保全と文化多様性保護はどのようにあるべきか」などの諸課題が、どのような複雑な関係性や由来のなかで展開されているかを、豊かな視点と事例から解きほぐしている。ナマコはどのように獲られ、どのような経路で流通し、どのような嗜好のなかで、どのようにして食べられれているのか。赤嶺氏は、アジア太平洋を縦横にかけめぐり、見聞と思索を深めてゆく。読みすすめるうちに、私たちもナマコをめぐる世界を共に旅するような冒険と知的興奮に誘われ、また考えさせられる。学術書でありながらも、きわめて読み易い文章である。これは赤嶺氏の研究が、地域研究における確かな蓄積、幅広く柔軟な視座、事象の本質を掴む感度の良さ、そして明確な問題意識、などに裏打ちされた、良質かつ本物の学問であるからこそ可能なものである。本書ではまた、学問のあり方自体を考えさせられる「問い」も、数多く含まれている。ぜひとも、多くの人に読んでいただきたい一冊である。