このCDよりビデオの方がいいと思いますが?
★★★☆☆
カラヤンがミラノスカラ座で活躍していた頃に録音されたものだが、
残念ながら、その成果が十分に発揮されていると思えない側面がある。
世間一般に「名盤」と誉れ高い演奏とあって、特に欠点らしい欠点はない。
カラヤンの指揮も名作オペラブックス(音楽之友社刊行)で評価されてる
とおり、作品の本質をついた演奏を展開していると思う。
だが私はほとんど全曲を通して聴かなかった。聴いても最初のところとか
一部しか聴かなかった。なぜならとても「よそよそしい」演奏だからだ。
当時のカラヤンは、オペラを録音するとき、実際の公演の前のリハーサルも
兼ねてオペラ録音をしていたという。多分この影響が大きく出ていると思う。
この後で録音している「ニーベルンゲの指環」もそうだが、何かリハーサル
を聴いている気持ちになる。明らかに「つなぎ」で作っている不自然さもある。
カラヤンのそういった手法は、オペラによって一定の効果があったのかも
しれない。しかし、ヴェルズモオペラの最たるこの作品には明らかにマイナス
だと思う。この作品に関しては、実際の公演後に録音したほうが良かったと思う。
カラヤンの演奏は他に配役を変えてビデオに残しているが、このCDよりは
面白く聴ける。「つなぎ」のような感覚もあまりない。多分映像に多大な時間を
費やすあまり、演奏は比較的「つなぎ」がなかったのかもしれない。それが
プラスに働いていると思う。実際、CDで聴いた時は作品自体が駄目だから。。。と
思っていたが、ビデオを見て、非常に面白い作品だと思った。配役もヴィカーズの
マリオを始めとして聴きごたえがある。
CDでオーケストラの視点でいい演奏を聴きたいという人には、ムーティとフィラ
デルフィアとの演奏がいいと思う。ムーティ独特の癖は多少感じるものの、こCD程
よそよそしい演奏になっていないと思う。
カラヤンとスカラ座
★★★★☆
カラヤンがスカラ座を振ったオペラで、それが良好なステレオ録音の正規盤ということになると、この「道化師」と、マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」の2点のみしか存在しないように記憶する。「道化師」が77分あまり、「カヴァレリア・ルスティカーナ」が80分あまりという演奏時間ゆえに以前は外盤の3枚組でしか入手できなかった。1枚ずつで発売されたことを喜びたい。
どちらも1965年の録音で、わたしが初めてこのディスクを入手したとき第一に注目したのは「カラヤンがその時期に振ったスカラ座はどんな音を出したか」ということであった。セラフィンやジュリーニ、サーバタのもとでオペラを演奏するときのスカラ座は、いろんな点で指揮者の個性を受けとめつつも、開放的なパトスをその信条としていた。
想像どおりというべきか、ここでのスカラ座の音はそれらとまったく異なり、非常な美音でかつ収斂してゆく「カラヤンの音」になっている。のちの「ボエーム」や「トゥーランドット」を演奏しているベルリン・フィル、ウィーン・フィルの音と志向するところが同じである。このディスクでいちばん端的にそれを示す部分を挙げろと言われれば「衣裳をつけろ」のアリアから終幕にかけての間奏曲のところ、ということになる。
カラヤンを尊敬する人間として星5つにしたいのだが、わたしはイタリア・オペラにたいして確固とした視点をまだ持っておらず、このディスクがこの曲の最もすぐれた再現か、という問いに対して「間違いなくそうだ」という自信がない。よって星4つとするが、歌手も粒ぞろいであるし、もとめて損をすることは決してない。このディスクが気に入った方であれば同様に「カヴァレリア・ルスティカーナ」もお薦めできる。