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創造者 (岩波文庫)

価格: ¥630
カテゴリ: 文庫
ブランド: 岩波書店
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印象に残った作、二篇 ★★★★★
 私には、次に紹介する二篇が印象に残った。

 一篇は、「天国篇、第31歌、108行」。ダンテ「神曲」(あるいは、「神の喜劇」と呼ばれるそうだが、それは、ともかく)よりの、引用なのだろうか?

わたしたちはこの眼で見ていながら、それと気付かないのかもしれない。地下鉄で乗り合わせたユダヤ人の横顔が、ひょっとすると、キリストのそれであるかもしれないのだ。(中略)ひょっとすると、十字架にかけられた顔のある特徴が、鏡の一枚一枚に潜んでいるのではないだろうか。ひょっとすると、その顔が命を失い、消えていったのは、神が万民となるためではなかったのか。

二篇目は、「ルカス伝、33章」。ルカ伝二十三章三十三節以下をボルヘスが解釈、創作したものであろう。

おお友よ、イエス・キリストのこの仲間の/天真さこそ、恥ずべき磔刑のさなかに/彼をして天国に願わせ、それを/得させたあの正直さこそ、実は/いくたびも彼を罪に落とし入れた、/血塗られた事件に巻き込まれた原因だったのだ。

〈彼〉は生来の〈正直さ〉・〈天真さ〉ゆえに、幾度も〈血塗られた事件に巻き込まれ〉、罪を重ねた、というボルヘスの解釈は新鮮だ。
 しかし私は、〈彼〉はマイナスのカードを集めた(罪を重ねた)おかげで、プラスに転ずる(天国に入る)ことができた、と太宰流に解釈しておきたい。
創造者ボルヘスの紡ぐ夢の世界へようこそ ★★★★★
200頁弱の小さな詩文集。同時期発売の『続審問』は巻末注なので、参照がちょいめんどいが、本作品『創造者』は脚注が各頁毎で読みやすい。

各作品非常に短く数頁程度だが、各々の作品が(例によって)「迷宮」あるいは「小宇宙」あるいは「合わせ鏡」のような永劫回帰的無限性をたたえている。小さな作品にこれほどの「濃度」で「世界」を封じ込めることができるのはボルヘスならでは。ジャンルを超越した博識もさることながら、その縦横無尽に乱れ飛ぶ想像力と感性が、ボルヘスの強烈な魅力だろう。例えば、本書中の一作品「鏡」。「そこでは、奇怪なユダヤの律師のように、わたしたちは右から左へと書物を読むのだ」(109頁)。私的なことで恐縮だが、私がへブル語のクラスを取ったとき、新しい言語を学ぶ困難さに加え、右から左へ読むという生理的困難さに閉口したものだ。ここでボルヘスは、「奇怪なユダヤの律師のように」という不安な感性を刺激する表現で、鏡に映った左右逆のめくるめく不思議な世界を我々に開陳する。実に見事ではないだろうか。

私自身、ボルヘスを理解するのに恵まれた環境にあった。文学についてはそれほど見識は広くなくとも、病ともいえる知的欲求と共に、古今東西のキリスト教書、哲学書を読み漁った。それでもなお、ボルヘスを完全に理解するにはほど遠いと実感している。
ボルヘスとの再会 ★★★★★
 三十年以上まえに国書刊行会から出版された〈世界幻想文学大系〉第15巻のボルヘス著『創造者』が、岩波文庫となって再登場です。かつてラテンアメリカ文学がブームの様相を呈していた頃に、私は親本を購入してざっと目を通しましたが、どうにも歯が立たなくて、いつのまにか手放してしまった、そんな苦い思い出があります。

 この文庫版は、従前の翻訳に丹念な加筆訂正と訳注の追加をほどこしてある由。

 それにしても、ボルヘスの詩文には、一筋縄ではいかないものが多い、と痛感。読者が本気で咀嚼しようと考えるなら、作者と肩をならべるぐらいの博覧強記と想像力の持ち主である必要がありそうですね。これは私見ですが、ジェイムズ・ウッダル著『ボルヘス伝』(白水社刊)によって伝記的事実を予習しておいたほうが理解しやすいのでは?

 正味200ページ足らずですが、速読にはまったく不向き。たぶん、猛烈に読者を選びそう。しかし、20世紀の知の巨匠ボルヘスの思想の本質を理解するためには恰好の書。ちなみに、作者の自己評価がもっとも高かった詩文集なんだとか。読みごたえは、大いにありますよ。
創造力って想像力。 ★★★★★
地図の精度を追求する余り、一分の一の自分の王国の地図を作ってしまった王国の一篇。

想像力って!

これだけでも買い!
詩人ボルヘス ★★★★★
ボルヘス。このなんとも奇妙な響きの名をもつ怪物は、図書館と呼ばれる宇宙に住んでいる。彼の短篇は20世紀世界文学の最良の収穫として名高い(実際、相反する命題同士を結びつける手腕は見事と言うしかない)が、その詩作の評価はどうであろうか。多くの読者には小説のオマケくらいにしか認識されていないのではないだろうか。

周知のことかもしれないが、ボルヘスは1923年「ブエノス・アイレスの熱狂」を発表し、詩人として創作活動を出発した。そして、以来ボルヘスは生涯自身の事を詩人と称し続けた。本書『創造者』は、詩人ボルヘスが自ら最高傑作であると認める作品である。その中にはボルヘスを語るうえで欠かせない「鏡」「分身」「時間」「ドン・キホーテ」などが詩語のうちに濃密に凝縮されている。

本書によって、詩人・ボルヘスが「再発見」されることを強く望みたい。