現代詩の鑑賞の柔軟性
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現代感覚に満ちた現代詩選集。少し古い近代詩人を含めても、現代感覚に合う詩を選んでいる。脚注は単なる脚注ではない。作品に関する丁寧な解説がなされ、構成、主題にも及ぶ。誠実なこころのこもった「現代詩への招待」となっている。
例えば、室生犀星には古典的なもっと他の詩を載せてもいいはずだが、「昨日いらつしつて下さい」(犀星70歳、最後の詩集、表題作)という玄妙な詩を挙げている。
「昨日しらつしつて下さい」などということは普通ではありえない。「昨日いらっしゃって下さればよかったのに」という意味でもない。昨日の私を堂々と訪ねてきてくれ、と迫る強い感懐を一見やわらかい語調に感じ取らなければならないと言うことである。それは誰か。生後すぐに引き裂かれた実母と推測できる。
「威張れるものなら威張つて立つていてください」という最終行にしても厳しい。生母そして女性に対する屈折した思いは終生この詩人から離れなかった。
しかし、こんなふうに読むと、詩のせっかくの不可思議の興趣を裏切ることになる。ここは、詩人が下駄でもなんでもつっかけて昨日の戸口を開けて、そこで人を待っている、言葉どおりの図を思い浮かべた方が面白い、と著者は言う。