わかりやすい入門書
★★★★★
若くしてなくなったフランスの哲学者、シモーヌ・ヴェーユの生涯を思想と共に紹介した本です。
その誠実さ、弱者への極度の共感性、徹底的に思考を突き詰めていく妥協のなさなど、ヴェーユという人の比類なさが伝わってきました。
私感ですが、哲学者というとどこか敷居の高さを感じてしまいますが、シモーヌ・ヴェーユに対してはそれを感じないという人は、私だけではないのではないでしょうか。
思想が簡単だというのではなく、難解であっても、それが常に一般的な弱者の立ち居地におかれているということ、自分もその一人であるという強い自覚に基づいているということが、そう感じさせるのだと思います。
あくまでも人の苦しみを他人事と思わず、我が痛みとして感じることに知性を集中させた人だと言う印象を受けました。
比べることが適切かわかりませんが、高邁な理想に燃えて思考を突き詰めていったあげく暴力的に自滅していった連合赤軍の幹部たちが、最も大切な「個人の痛み」という視点を切り捨てて、あるいは克服すべき弱点とみなしていたのは、ヴェーユとの大きな違いであるなどと、本書を読んで考えてしまいました。
余談ですが、鈴木大拙が、この人の本を読んでいて、自分の名前が出ているので驚いた、といっていました。
ヴェーユは鈴木大拙の著作を読んでいたようです。だからというわけではないでしょうが、大拙は、「労働者にとって必要なのは詩」というヴェーユの発言を取り上げて、「この人の頭の良さには注目しなければならないと思う」というようなことをいっていました。
国家や文化間の対立が複雑さを増し、日本においても社会との関係で個人が病む事がますます多くなっている現在において、なおいろいろな面から読み直すことができる、傑出した人物だという感想を持ちました。