二人の旅を見直す
★★★☆☆
NHKカルチャーアワー・生きる知恵「旅でみんな大きくなった」のほか、毎日新聞の連載、書き下ろしなどをまとめて一冊の本としたもの。
芭蕉と円空は同時代人だったという。ちょっと意外な気もするが、旅先ですれ違った可能性すらあるらしい。
本書は、前半が芭蕉の旅、後半が円空の旅。芭蕉の場合は、俳人としての成長を旅のなかに読み取っている。故郷での日々、新進気鋭の俳人として江戸にデビューしたころ、馴れ合いを棄て貧窮のなかで俳風を磨くようになってと、あちこちで芭蕉の俳句を引きながら話が進んでいく。なかなか面白い。
円空については、各地に残された円空仏をたどるもの。民衆のために仏を彫りつづけた日々と心が浮かび上がる。しかし、こちらは不満が残った。なんというか、円空というものが伝わってこないのだ。写真も何枚か使われているのだが、物足りない。円空仏の存在感を再現するのは大変なことなのだろう。
道を求め旅した二つの魂
★★★★☆
“孤高の天才詩人”の印象があった芭蕉が、
世俗の栄達を求めて様々な挫折や逡巡を繰り返し、
もがき苦しんだ果てに、晩年になってたどり着いたのが、
「奥の細道」に代表される…」というより、「奥の細道」によって確立した、
「蕉風」であったこと。
そして円空。12万体作仏という、気の遠くなるような願を立て、
当時、“地の果て”だった蝦夷地…北海道の、
分けても当時の日本人が行ける極北にまで赴いて仏像を残した。
「あえて迷いの道にとどまり、人々の救済のために生き」
最後は“即身仏”…生きながら仏となって衆生を救済せんとした。
壮絶としかいえないその生き方。
立松が書く、「人生が50年しかない時代は、人は一生懸命生きなければならなかった。」
という生の切実感が、彼らの鋭利な生き様を生み出したのだろうか。
脱線を繰り返しながら行ったり来たりする文章ではあるが、
作者の芭蕉・円空への深い傾倒と愛情が感じられ、
その力に引きずられて最後まで読みきってしまう。力作である。