ついに復刻!幻の名作がついに登場。
★★★★★
94年に製作されたものの、あまりの実験性のきわどさ、商業的流行とは乖離した音楽性に「発売は許すが一切プロモーションはしない」とまで当時のレコード会社から忌避され、シカゴがレーベルとの関係を悪化させ、かつ作品自体がオクラ入りしたという有名な事件があった。
以後、この幻の作品は、曲単位で断片的にベストアルバムの中や、再録音されてジェイソン・シェフなど個々のメンバーのソロ作の中で紹介されてきた。それらを聴くたびに、まさにエッジの立った(音質という意味だけでなく音楽性も)楽曲の素晴らしさに「フルアルバムで発表されないものか」とファンなら誰もが思っていたはず。
それが「シカゴ32」として堂々と世に出るなんて、まさに奇跡だとしか言いようが無い。
改めて前編聴いてみると、確かに90年代独特のリバーブの聴いたサウンドに多少の古さを感じるかもしれないが、それを差し引いても余りあるサウンドの冒険性に身震いする思いだ。あの70年代前半の、時代の最先端を疾走していた頃の尖がったシカゴが、ここにはある。
Trk1のうねるようなハードなホーンの響きに感動しつつ、Trk2の静謐なバラードで感涙する。(父への思いをジェイソンが歌った曲で、ベースはその父ジェリーが客演している。しかしその音入れ時にはボーカルを聞かせておらず、完成した際に歌入りの曲を聴いたこの父は、自分への思慕を歌った息子の歌声にただただ涙していたという)Trk4のファンキーなリズム、Trk5ではなんと、ロバート・ラムによるラップが登場。Trk7は私のお気に入りのハードでぐいぐいいく名曲。Trk9からの3曲はビル・チャンプリンの魅力爆発のR&Bテイストの見事な曲。
ボートラはデモが3曲と、ジェイソン提供の未発表曲Trk12の4曲。どれも製作過程が分かる貴重な音源。
既に聴いていた曲も、こうしたアルバムの構成の中で聴きなおすと更に魅力が増す。これが当時、世に出ていたらどうなったのだろうか。もしかしたら、シカゴがその時点で完全にバラードバンドから脱却して再生しただろうか。あるいは完全にバンドとして終わってしまったのだろうか。
いずれにしても、シカゴはまだ生きている。そして、本作を完全な形で世に出してくれた。なんて素晴らしいことなんだろう!それだけで満点を献上したい。