資本主義は多様である
★★★☆☆
昨今では「資本主義の多様性」についての活発な議論がなされているように,資本主義は一様ではありません.しかしながら,著者は「あとがき」で「『資本論』に由来するマルクス経済学の体系を基本的に保存したものにとどまった。他の体系の可能性を否定するわけではないが……」と断っていますが,「新古典派による資本主義」に対し否定的な記述が目立ち,バランスに欠けると言わざるを得ません.
サブタイトルの通り「資本主義を知る」ことが目的のテキストであれば,「他の体系」についてもそれぞれの長所・短所を客観的に解説していただきたいです.
マルクス経済学から社会経済学へ!―「過渡に位置する著作」の深化のゆくえ
★★★★★
本書は基本的にマルクス経済学の基礎理論に依拠した経済原論のテキストである。第3章の「貨幣」論から第7章の「利潤」論(生産価格論)までが「基礎構造」で,それ以降は「派生・過程」という位置づけがなされる。当該テキストを貫流する根本視点は「社会的再生産」であり,この概念が「社会経済学」を主流派(新古典派)理論との識別をなすものとして重要視されている。現代経済理論を支える「均衡」,「過程(循環)」そして「再生産」の質的区分をより明確化する試みも展開されなければならない。第1章には「経済学批判」の精神が読み取れる。
マルクス経済学の「通説」との顕著な相違も随所に盛り込まれていると述懐される本書は,「過渡に位置する著作」(234頁)だ。それゆえマルクス理論を尊重しながらも,それと親近性を有する競合的諸学派(理論)である,ポスト・ケインズ派,レギュラシオン派,ラディカル派,新リカード派(スラッファ体系),制度・進化,ゲーム理論についても一定の叙述が行われ,社会経済学の今後のあり方を見据えるべく貴重な概観が提供されている。この学問領域それ自体が深化・拡充してゆくものである以上,こうした新たな試みは著者の特異性(独自性)を表明すると同時に,エキサイティングな心境にわれわれを誘う積極的効果を有する。
凝縮された論述内容によって編まれており,学部学生はもちろん,一定の専門知識を習得した研究者でもいささか難解である部分がたしかに本書にはある(特に第7章「利潤と価格」や第9章「商業と金融」など)。数式展開にもう少し配慮がほしいと実感する読者もいるだろう。とはいえ真剣に「格闘」する学問精神で向き合えば,本書に投影された著者の思想様式を鮮明に理解することは可能であるに違いない。市場社会と生態系(自然環境)の調和とそのガバナンス形態など,更に考究すべき諸問題も数多い。本書を精読することがそのための意義深い一契機となろう。著者・八木紀一郎教授の「社会経済学」のより一層の発展を心から切望したい。
まあ、こんな物かな
★★★★★
京都大学教授である程度のマルクス理解がある著者が書き下ろしたテキストである。内容は基本的にはマルクス経済学の内容です。それでも野心的なのかどうか判りませんが、独自の味付けも施してあります。マルクス経済学を社会経済学に起きえることによって復権をもくろんでるようです。常に社会は左右に揺れ動きます。今は社会全体が右傾化しているので、こう言うマルクス色を薄めた本が売れるのかも知れません。何はともあれ、1人でも社会経済学、ひいてはマルクス経済学に興味を持たれる事を切望します。それに対する非マルクス経済学(近代経済学)も何らこの社会状況に対する処方箋を賭けない状態にありますから。意図的にマルクスを無視出来ますが、それを無視できない所にマルクスの偉大さが改めて伺えます。