女の目で女を考え、女が演じる女をみる。女は嫉妬に動かされるのか?
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詩人、戯曲家として活躍した女性ダーチャ・マライーニが、フリードリヒ・シラーの戯曲「メアリー・ステュアート」を下敷きに、女の目から書き変えた戯曲。登場人物は二人の女王とそれぞれの侍女の女性4人。注がついていて、女性ふたりだけでも演じられると書かれている。巻末のスコットランド女王メアリーとイングランド女王エリザベスに関する年譜(1533年から1603年)をみると、この時代の王家は、愛と欲望と権力が入り乱れ、真にスキャンダラスなことに驚いてしまう。また、本文でも頻繁にでてくるが、当時の処刑はお祭のごとく、人びとの好奇の目の前で、公然と心臓が抉られ、内臓が並べられと・・・ほんとに想像できないほどすご〜いものだったようだ。
17年間の幽閉の間に、何度も会いたいと書き送りながら、とうとう実現されなかった面会。会って話をすることで、エリザベス女王がメアリー女王の処刑をやめてしまうのではないかと、家臣たちが恐れてのことらしい。ふたりの女王が、それぞれ自室で語る長いセリフと侍女を相手にするおしゃべりが、感情豊かで実に人間臭くとても面白い。
シラーの戯曲の「女性は嫉妬に縛られ、嫉妬に翻弄されると決め付けたお定まりのストーリー」に決別し、ダーチャは、「女は嫉妬から自由だ」と高らかに宣言する。生き生きと語られるセリフ、日本語訳もなかなかうまい。自然で力強い女の本音が語られていく。時の権力者エリザベス女王と、明日の命さえ定かでない幽閉された美しいメアリー女王。カトリックとプロテスタントという宗教の問題。侍女ケネディが語る「民衆の前にさらされても、毅然と威厳をもって断首されたメアリー女王処刑の顛末」は、心を打つ。
巻末に訳者望月紀子氏が記している長い解説は、この時代の世相や女性観、また、本戯曲のセリフの説明など詳細にわたり、読み応えもあって分かりやすく必読の価値がある。史実を知りたい。そして、ただただ、この戯曲が観たくなる。