幾何学に生涯を捧げた数学者の魅力ある伝記
★★★★★
たまたまコクセターという数学者のことを知り、彼の著書を読み始めたところ、
タイミング良く本書が出版されたため、彼の著書は一旦脇におき本書を読んでみた。
本書は、原著者のコクセターという人物への並々ならぬ関心から生み出された本であり、
愛情溢れる伝記となっている。
原著者のサイトをみると、数学と科学に関するフリーランスのライターで、
本書が初めての著作、現在はジョン・コンウェイ(英国生まれの数学者)
の伝記を執筆中とのことである。
読後感については、最初の評者による書評と概ね同じである(そちらは素晴らしい書評である)
あえて特筆するとすれば原著者の綿密な取材であろうか。
それは充実した脚注として表れており、
本文320頁に対して脚注110頁と言えば、脚注の充実度が伝わると思う。
非常に密度が濃く、本文に含めてもおかしくないほどであった。
翻訳についても良心的であり、とても読みやすい。
数学や科学に関心のある方々に一読をお勧めしたい。
Coxeter の魅力をあますところなく伝える力作
★★★★★
20世紀古典幾何学のヒーローであるドナルド・コクセターの伝記であると同時にコクセター幾何学を紹介する書でもある.第一部はコクセターの生涯・業績が20世紀の数学・物理学の巨人たちとの関係とともに語られている.その中にはコンウェイ,エルディシュ,フォン・ノイマン,ヴィトゲンシュタインそしてアインシュタインも含まれている.第二部はコクセターの仕事が現代科学や文化にどのように応用されているのかが語られている.バックミンスターフラーやエッシャーも登場する.
著者の仕事は緻密かつ丁寧であるが,初学者にもわかりやすい言葉で書かれている.コクセターに対する愛情に溢れていて,たまに過大評価に感じるところもないわけではないが,その筆致はおおむね客観的であると言える.翻訳は華やかではないが誠実であり読者に誤解を与えるような雑なところがなく好感が持てるものである.
これは良書である.幾何学に興味がある人だけではなく,純粋に科学を愛するすべての人に読んでほしい.私は感動を約束する.このような良書が日本語で読めることに私は最大限の賛辞を贈りたいと思う.著者,翻訳者,出版社,そして本書が出版されるために協力を惜しまなかった全ての人たちに感謝したい.