キューブリックを惹きつけたもの
★★★★★
キューブリックのアイズワイドシャットの原作ということで読んだ。同じ動機で本書を読む人は多いと思う。キューブリックの御威光としか言うほかは無い。
読んでみて感心したのは キューブリックは実に忠実に原作をなぞっている点である。キューブリックが変更したのは舞台と時代だけで 後は ほとんど原作通りである。
キューブリックだけが この原作であの映画は作れないとも感心した。誤解を避けるために言いますが この原作は相当の傑作であり 読んでいて 「人間の心の中の木立の深い森に迷い込んだ」という印象を強く受ける 大変彫りの深い短編である。キューブリックは これを現代に翻案するにあたり その基本線は全く崩していない。言い換えると 原作の時代であった第一次大戦前後の人間の心理が そのまま現代でも使えるという点に この原作の映画化の一つの理由があったのではないかとすら思ってしまう。夢魔的な映画であったが つまり 原作も映像を欠いていながら 十分に夢魔的な作品である。