持株会社は「バベルの塔」ではないのか
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1997年の解禁以降、わが国の経済界において雨後の筍のように林立するに至った純粋持株会社については、これまでのところ網羅的な分析を瞥見したことがなかったが、本書の出版を知りすぐさま購入、一読した。力作である。
持株会社解禁の前史(特に原始独禁法における第9条と第10条の制定経緯やその後の改正史)や解禁事情(即ち金融システムの再編=巨大銀行の救済)、「エンドレス機構」としての性格、「組織の壁」や情報の非対称性が生じることにより逆に本社の求心力が弱まってしまい却って全体最適やグループ・シナジーの実現が阻害されるリスク、持株会社同士の水平的経営統合が容易であることから競争が減少し業界によっては寡占化が進行するおそれ、HHI基準がもたらした新たなゲームの規則(即ち先手必勝)、「四種の神器」(存続会社、本社所在地、社長(CEO)、社名)における主導権争いなどなど、どの論点整理や分析も、切れ味鋭い論旨の展開を通じ、腑に落ちるものばかりであった。今日では純粋持株会社制を廃止する動きも各所で顕在化してきているようだが、さもありなんという気がする。
「純粋持株会社とは特定の本業をもたない親会社であ」り ・・・ 「安易な事業分野の拡散をもたらすことによってより遠心的な経営に流れやすくなる」(144〜145頁、いわば「不在支配」による「本業離れ」や「本業喪失」のリスク)。
思えば、大きな流れの上では、純粋持株会社の解禁が今日の雇用流動化(貧困問題)の遠因の一つとなってきたことは明らかではなかろうか。個人的には、オペレーショナルなレベルでの事例分析が一層蓄積されることを望むとともに、今後の実態監視や制度運用における公正取引委員会の使命と責任が誠に重大であることを強調しておきたい。