「実人生の白兵戦」
★★★★☆
表題作は著者得意の評伝劇。啄木の諸作品(特にその日記)を読み込み、彼の「喜之床」時代を解釈的に再現しながら、実人生と正面から対峙し遂に爆発的な文才を発揮するに至る石川啄木の姿を描く。(そしてそれは、解説(扇田明彦氏)にもあるとおり、著者自身の離婚問題という同時期の「白兵戦」とも重なり合うものであった。なお、82頁に記された詩論は、「弓町より−食うべき詩」の一節(岩波文庫版では64頁)と呼応するもの。)
二編目の「日の浦姫物語」は、兄と妹の過ちからこの世に生を受け、成人して知らず実の母と結ばれ、その後苦難の懺悔を経て教皇にまで上り詰めたグレゴリウス一世(604年没)の生涯を『今昔物語』的背景のうちに描いた戯曲。世界文学的なモチーフを巧みに生かした傑作であると思う。