太宰治は何を読んでいたか
★★★★☆
デカダンスの作家、太宰治と坂口安吾。その二人に私淑していた火宅の作家檀一雄が、
ふたりについて折々に書き留めた断章である。
中で、印象に残ったのは「太宰と読書」と題する一篇である。
太宰治は何を読んでいたか。そこには次のようなものが挙げられる。
『花伝書』『斎藤緑雨』『三遊亭圓朝全集』『俳諧柳樽』『お伽草子』
『伊曽保物語』『井原西鶴』『松尾芭蕉』『上田秋成』『伊曽保物語』
『枕草子』『泉鏡花』『岩野泡鳴』『永井荷風』『葛西善蔵』
『聖書』『チェホフ』『ドストエフスキー』『プーシキン』
『レールモントフ』『シェークスピア』『サロメ』『ポー』
『ニーチェ』『ジイド』『トルストイ』
太宰はこれらを時に換骨奪胎し自家薬籠中のものとした。
「撰ばれたものの、恍惚と不安と二つながら我にあり」
そして「古伝説とシルレルの詩から」着想したとする『走れメロス』
同じ作品が、鈴木三重吉の作品として『デイモンとピシアス』と題して
青空文庫で、読めるが、太宰の文章力と翻案力がどれほど優れているかよくわかる。
だって太宰と安吾を壇一雄が書いたんですよ
★★★★★
昭和43年に虎見書房から刊行されたものを、2003年バジリコが復刊し、最近書評でとりあげられ、私も存在を知りました。太宰と安吾について壇一雄が書いたものを集めたもので、重複する内容も多いのですがたいへん面白かった。特に太宰との熱海事件?は落語の「居残り」そのもので、何回も書かれているが笑える。「太宰の背骨には落語がある」という指摘ももっとも。安吾ファンなので、安吾のほうを期待して購入したのだが、太宰に関するもののほうが深い関係が偲ばれる。生誕100年で、現在書店に太宰の文庫が多く積まれ、「ヴィヨンの妻」など今まで読んでないものを読んでみると、文章は跳ねており、ユーモアもあり、昔「昭和軽薄体」という言葉がありましたが、太宰が元祖ではと思わされた。太宰再発見をさせてくれたありがたい本。