数字を簡単に信じないこと
★★★★★
人間の統計的思考の落とし穴が,様々な事例をもとに解読されており,面白かった。
人間にとって確率は難しい概念なんだろう。頻度で考えることで,だいぶ「わかる」ようになる。乳がん検査やドメスティック・バイオレンスなど様々な具体的な例を挙げて,さらに著者らの研究をわかりやすいかたちで(研究自体が分かりやすいのだが)解説されていて説得力がある。特に大きな落とし穴として,擬陽性の問題があることがわかった。発生する確率が低い出来事では,擬陽性が大きな問題となるのだ。
統計的思考をすぐに身につけることは容易ではない。でも,最初のとっかかりとして,「わからないのに,数字を簡単に信じないこと」がいいのかもしれない。
確率の理解は必要だが、それは「確率」とは異なる
★★★★☆
ここ最近、日本でも乳がん検診の必要性が叫ばれてきたように思うが、
本書はそのような科学的検査における誤診のリスクについての問題提起を行っている。
インフォームド・コンセントを可能にするためにも、医師になる人間が「確率」についてもっと理解すべきであるし、養成課程の中にも「確率」の学習を入れるべきだと主張する。アメリカとドイツの医師に対して行った条件付確率の問題の結果が書かれているが、正答率が非常に低く、興味深い。ただ、さすがに日本の医師はもう少し正答率高いだろう、とも思った。
しかし、著者がいう「確率」の理解が進まないのは確率の概念が登場したのが歴史的に見れば最近だから、という主張には首をかしげる点もある。インフォームド・コンセントやリスクコミュニケーションにおける「確率」の理解は説明を受けるものと説明をするものとでコモンセンスがとれるようなものではないと思う。これは、現代的な意味での確率がそれ自体では何も現実的な意味を持ち合わせず、それが現実的な利益や損益と掛け算されることではじめて意味をなすことに起因する。また利益や損益というのは千差万別人それぞれのものである。
例えば、原子力発電所の設置について、専門家がいくら施設の安全性をうたっても、施設の近隣住民の判断は分かれるだろう。確率が限りなくゼロに近くても、損益が無限大であれば、そっから出てくる「確率」も無限大になってしまう。専門家はその場に居合わせることがないので、同じような「確率」意識は持てないだろう。
ただ、インフォームド・コンセントでいえば、対話の中で、説明を受ける側がどのような利益・損益に関わる意識を持っているかは理解可能だし、そのような対話を繰り返すことで、妥当な判断に結びつくだろう。この場合、重要なのはむしろ対話の方になる。
著者自身、表面的な意味での確率ではなく、このような「確率」について述べてる感じがあったので、一応指摘しておきました。しかし、社会学者のウルリッヒ・ベックもそうですが、ドイツはリスクに対しての問題意識が高いですね。
医療の本ではない。科学信者にならないための教養の本。
★★★★★
原題は「Calculated Risks」であり、副題を直訳すると「数字がいつあなたを欺くかを知る方法」となる。日本語版のタイトルがひどいせいで胡散臭さを感じるが中身は非常に良い本。
確率や割合の話をされると普通の人間がいかに勘違いをしやすいかとか、確率や割合の話をしている人が自分の言っていることを理解していない場合がいかに多いかとか、古典的なものから独自のものまで豊富な具体例を用いて非常にわかりやすく説明しているんだが、使われている例が素晴らしいので「逆と対偶の真値表は一般には一致しない」や「相関と因果は違う」をきちんと理解している人にとっても決して退屈な本ではないと思う。だって、本書の中で「勘違いをしている人」として主に挙げられているのは平凡な市民ではなく医者と法律関係者なのだ。少しテレビを見ればキャスターは言うに及ばず、政治家や大学教授などの「専門家」や「センセイ」が、意図的か過失かは知らないが、同じ間違いをしているのを容易に確認できる。騙されないためというよりも、親として教師として有権者としての大切な教養、妙な思い込みから他人に迷惑をかけないための教養を身につけるために役立つ本である。
豊富で適切な例を用いた説明は言うに及ばず、「母集団を意識すれば確率や割合に関する最も単純なありがちな勘違いの多くは避けられる」という非常に簡潔で誰でも応用できる処方箋を強調していることも見逃せない。この処方箋と「その言葉の意味(定義)は?」という問いかけだけで世論を誘導するための報道(?)や誤解を広めようとする宣伝のかなりの部分は拒絶できるはず。強いて欠点を挙げるとすれば、本の構成が後で読み直すのに適した形になっていないのが気になる。「事実誤認の事例」「推論の間違いの事例」「一般論」「提言」というふうに章分けされていたら繰返し読むのによいだろうに(それほど充実した内容なのだ)。
目から鱗
★★★★☆
何%の確率、という表現、統計、をはじめとして、数字にだまされないための心得を、膨大な例から教えてくれます。
難をいえば、少々くどいことでしょう。まあ適度に拾い読みをするだけでも十分役に立ちますが。
特に仰天したことをあげます。
○ 1974年まで、テキサス州の法律では、妻の不倫現場を目撃した場合、夫は相手の男を殺しても罰せられなかった。
○ 指紋の判定も100%ではない。
日本でも乳がんX線検査の煽りキャンペーンが進行中
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この本を読んだ女性は乳がんX線検査の無意味さに気づくと思います。いたずらに不安感を煽るだけで、ほとんど効果のない検査をまことしやかに喧伝する悪質なキャンペーンが今日本でも進行中です。一見親切そうなキャンペーンにだまされないために、この本を読むことをお勧めします。