両親の別居に伴い、群馬県の祖父の家で暮らすことになった小学校5年生の真生(嗣永桃子)は、転校先の学校で級友と打ち解けることができない。ある日真生は、捨てられた仔犬・ダンを拾った千香(清水佐紀)と出会う。ところがダンは目が見えなかった。2人はダンが安全に暮らせる場所を探し始めたが・・・。
本作品はアイドル映画でもハンカチムービーでもなく、過度の装飾を排した正統派の映画。実話に基づくダンのエピソードと、少女・真生の自分探しのエピソードが巧みに融合され、しっかりした物語を形作っている。中でも、真生!がダンをめぐる一連の出来事を契機に多くのことを学び、閉ざしていた心を徐々に開いていく過程は、この作品の真の主題ともいえる。唯一不満な個所は、団地の住民たちが対立する場面。構成上クライマックスが必要だったとはいえ、人物の描き方がここだけステロタイプで、作品の流れの中で違和感がある。
出演者に関しては、中心となっているのはキッズであり、娘。など他の出演者は脇に徹している。娘。だけを目当てに観ると物足りないだろう。これが初の本格的な仕事となったキッズの11人は、まだ決して上手いとはいえないが、みな子供ならではの素直な演技を見せている。とりわけ、事実上の主役である真生を演じた嗣永桃子がいい。役柄上殆ど笑顔を見せず、その引き締まった表情が強く印象に残る。嗣永をはじ!めとする「二十二の瞳」の頑張りと、その潜在能力を引き出した監督の手腕に拍手を送りたい。
低年齢層を主な対象としているため内容は分かりやすく、しかし質に関しては決して妥協せず水準は高い。全ての世代の鑑賞に堪えうる作品になっている。
本作には、商業的に大きな制約があったはずだ。“モーニング娘。+ハロー!プロジェクト・キッズ+後藤真希”――サブタイトルに名を連ねる20名の少女、それぞれに一度はスポットを当てなくてはならない。心情的にも、おそらくは然りであっただろう。その難問を、澤井信一郎監督は大人も含めた群像劇とすることで、巧みに処理している。しかも勧善懲悪のルールが刷り込まれた日本人の映画としては、めずらしいタイプの人間ドラマとして。善人は絶対的に善人、悪人は相対的に悪人といちステロタイプではなく、登場人物はリアルな個を持っている。それぞれがそれぞれの立場で、やさしさを持っていたり、厳しさや冷たさを持っていたりする。伝記物からサスペンス、果ては特撮ヒーロー作品まで、ジャンルを問わない名匠・澤井監督のバランス感覚は見事だ。
強いて難点を上げるとすれば、ダンを巡る結末が、少し性急過ぎたのではないか、という点。ダンのエピソードよりも、物語の中心的少女・真生が、自分の居場所を自分の意志で撰び取る結末の方が、個人的にはココロ揺さぶられた。
その真生役の嗣永桃子ちゃんには、天才的なものを感じる。台詞回しが特別巧いワケではなく、強い意志を思わせる目に、力を感じるのだ。『野性の証明』時の薬師丸ひろ子、と言ったら言い過ぎか。役者として、20代㡊30代と、年を重ねていった時の姿が見えてくるような、強力な存在感が彼女にはある。