面白いけど少々手こずりました
★★★★☆
文章は軽めで明晰、話も最後まで飽きさせず、各登場人物も活き活きしていて読んでる間はかなり楽しめました。ただ、登場人物の数が多く、話も時間や場所が錯綜し、些か理解するのに時間がかかったのも事実で、これはひとえに話の中軸をなしていると思われる、ネパール系インド人の混乱した歴史の暗喩の為ではないかと推測します。訳者あとがきに少し触れられているネパール系インド人の困難と苦難の歴史を登場人物の営みと歴史の流れに託して小説に浮かび上がらせるという作法を用い、その意味ではうまく成功していると個人的には思いますがどうでしょうか。タイトルの「喪失の響き」とは、ネパール系インド人の人の失われたアイデンティティと歴史を各登場人物を通して訴えている、という風に考えていいように憶測します。
著者はやはりインド系だそうで、自国の内情を世界に喚起したいという願いが込められてるのと、比較的に弱い立場にいる人の代弁を独善的にならないような感じでしたかったようにも読めました。完成まで7年かかっただけあるシンプルな大作だと思いました。まだ若いだけに今後に期待したいです。