人間の本質としての弱さを突きつける
★★★★☆
だむかん。
風の噂で、実際に電力会社へ勤務してダム運用の
実体を実体験を通じて作品化したとのこと。
噂にたがわず、当事者でしか知らない業界用語、
例えば”別図第二”なる用語にどれほどの意義と
畏敬を感じるものがいようか。
しかし、そんな職業小説の限界をこの「だむかん」は
突き抜けている。
横山秀夫に代表される職業小説の真の魅力は、その
職業自体ではなく、その職業観や実体験を通じて
人間の価値観や生き様を小説というインターフェイス
で垣間見えることにある。
この点で、「だむかん」も職業小説の水準を超えている
と私は思う。
人間の日常と非常時に見せる姿のギャップこそが、その
人間としての器や弱さを最も物語る名場面であろう。
ダム管理所という、社会的な接点がすくない追い込まれた
状況の中で、人間が如何にその人間性を保つか。
そこに、「だむかん」という特殊性を超えた、一般社会で
感じる孤独観、言い換えれば”社会とのつながりの見えない化”
への問題提起を世へ問いかけている。
『だむかん』は、さすがでした。
★★★★☆
最終候補作の『ヘラクレイトスの水』、『大学半年生』、『ひょうたんのイヲ』の順で読んでから、最後に太宰治賞の『だむかん』を読みました。
『ヘラクレイトスの水』と『大学半年生』を読んでいたときは、随分文体が凝っているな、太宰治賞と言うと、こういう文を書くものなのかなと思いましたが、読みやすいわけではありませんでした。特に『大学半年生』は読んでいてつらく、「早く終わらないかな……」という気にさせられました。『ヘラクレイトスの水』は、麻薬の売買から始まっていたので、最初で一気に主人公を嫌いになりましたが、読み終わるときには「ああ、そうだったのか……」と、なかなかいいものを読ませて頂いた気になりました。
『ひょうたんのイヲ』は、方言が分かりにくい以外は普通の短い文で書かれていたので読みやすく、一気に読めました。三浦しをんさんがラストに唐突感があると評していますが、私は、そこがいいのに!と思います。
『だむかん』は、さすがだと思いました。実在のニュースで似たようなのがあったのを記憶しています。あの事故が下敷きになっているかどうかは分かりませんが、職業小説として充分読み応えがあるかんじです。三浦しをんさんが、主人公の性格が分からない、構成に失敗していると評しているけど、私はこの構成のままで、この主人公で、充分に共感できる。
ただ、三浦しをんさんというのは、面白い感性の作家なんだなと、一度作品を読みたくなりました。