本当は「私たちは誰か」「どう考えれば良いか」「何をすればよいか」の指南本ガイドである。
★★★★☆
原題は『50 PSYCHOLOGY CLASSICS 』だが、実際はサブタイトルについている
『Who We Are,How We Think, What We Do Insight and Inspiration from 50 Key Books』
(50冊の鍵になる本から選んだ、私たちは誰か、どう考えれば良いか、何をすればよいかについてのヒントと洞察・レビュアー拙訳)
というサブタイトルの方がこの本の性質をよく表していると思う。
「心理学50の古典」と、いうには大事な本があまりに抜け落ちすぎている。
原著者は、自己啓発系の人らしく、選んである本も自己啓発、ポジティブシンキング、
EQ、ビジネス成功術、悩み解決法といった系統の本が多数含まれる。
たしかに心理学的に重要な文献であるスティーブン・ビンカーの『人間の本性を考える〜心は「空白の石版」か』
V・S・ラマチャンドランの『脳の中の幽霊』などが含まれているが、比率として自己啓発敬の本が多いと思われる。
この本のセレクションは、また、アメリカでの心理学の取り扱われ方を示しているとも言える。
カウンセング全盛のアメリカでは、生きていく上での心理学はツール化しているのである。
この本には良いところもある。昔の心理学説には既に理論としては陳腐化していて、心理学史の一つとして読むのがふさわしい本もあるが、
例えばフロイトの『夢判断』の頁には、「(夢判断はさておいて)フロイトの最大の功績は人々に心理というものに興味を持たせたこと」
と記しているなど、短い枚数の中できちんと批判と評価を行っている点である。読む方はさらに、注意深くその批判と評価自体が正しいかを
判断して読むべきである.概して、原著者は青春分析には好意的で、フロイトに対しても、娘のアンナ・フロイトに対しても、点が甘過ぎるとぼくは思う。
心理学全体のガイドブックには成り得ていないが、カウンセリング本を多く含むガイドブックということでみれば有用である。
ただしこの本でざっとした内容をつかんだら必ず原典にあたって「注意深く」『批判の目を持って」読み、盲信しないことを勧めます。
幅広い心理学の世界をざっくりとつかむ
★★★★★
1900年のフロイトの『夢判断』から、2006年のダニエル・ギルバート『幸せはいつもちょっと先にある』、ルーアン・ブリゼンディン『女性の脳』まで、100年以上にわたる心理学の歴史から50冊の名著を選んで要約した本。テーマ別に「行動、生物学、遺伝子−脳科学」、「無意識の活用−別次元の知恵」、「プラス思考で気分爽快−幸福とメンタルヘルス」、「人格と自我の研究」、「動議づけ(モチベーション)の研究」、「愛する理由−人間関係のダイナミクス」、「ビジネスでパワー全開−創造力とコミュニケーション能力」の7つの分類となる。
それぞれの名著のエッセンスを短時間でつかめるのはありがたい。大体が4ページから6ページにまとめられていて、それだけでも大胆だなと思うが、最後に「本書を要約するなら」という欄があり、わずか1〜2行にまとめているのもすごい。
50冊のうち、邦訳があるのは41冊。日本語で読める本は結構多いのではないだろうか。ハワード・ガードナーの『心の構成』など、有名だが邦訳のない本も案外ある。独創的なアイデアを示した本も最初のものは訳されず、ある程度社会に受け入れられた2冊目、3冊目になってから翻訳されるケースもあるのだろう。面白いけど読むのが結構大変で途中でやめていた本や、ペーパーバックで持っていても読めていなかった本などの要約はありがたい。こんな本があったんだと思わせる、子ザルの実験で有名なハリー・ハーロウの『愛の性質』など、読む人それぞれに発見があるだろう。心理学が好きな人、幅広い心理学の世界の概要を手軽に知りたい人におすすめである。
家族内や夫婦間・他人との関係などでうまくいくコツも解る本
★★★★☆
読む前は、心理学は超能力やSF物に似てどこか信用できないイメージがあり、あまり期待してはいなかったのであるが、50冊のエッセンスだけであるがとても興味深い学問領域であることに改めて気付かされた。
心理学は、精神異常の人間の治療として始まったので、通常生活から遊離しているイメージが強い。が、本来、心理学は「自分を知る」ための学問であり、その延長線上で人間の行動心理を学問対象とするため、対人関係で起きる様々な事柄の裏に潜むものが何かを解明することにも多大な研究が費やされている。すなわち、家族内や夫婦間・他人との関係などで、うまくいくコツやその意義・考え方の解明に心理学は大きな貢献をしてきた。更には、営業成功向上のための人間心理の応用や、社員のモチベーション向上方策への応用などを通じて、ビジネスにも大きな影響を与えてきたとも言える。そういたことがよく理解できる構成となっている。
専門用語も多いが、人文系科学特有の「正解はない、もっともらしいということだけ」を念頭に置けば、読む分にはストレスはない。むしろ、分析していることが、「思考」なのか「気分」なのか「感情」なのかなどをはっきりと見極めて読むことが大切である。
心理学のエッセンス,ここにあり
★★★★★
心理学に関する有名な本について,これほど多くのものを,これほどコンパクトにまとめたものを他に知らない.一冊について8ページ前後で記述されているので,読んでいて苦にならない.また,解説には必ず「最後に」という節があり,心理学的な意義を示してくれているので,大変ありがたい.
初学者には心理学の全体像をつかむためによく,ある程度心理学を勉強した者には,広範囲に及ぶ心理学の知見を整理し,世界を多元的に見るための指南書の役割を果たしそうだ.いずれにせよ,実際の著作に触れるきっかけを与えてくれことは間違いない.
他に,訳が日本語として十分こなれていることも評価される.研究論文をまとめている「心理学を変えた40の研究」も名著であるが,直訳すぎる感が否めない.本書の訳者が心理学関係の本を,これからも翻訳されることを望む.
ただ,本の選択が臨床心理学の方へ,いくぶん偏っている傾向がある.少し考えただけでも,知覚心理学のギブソン,表情分析のエクマンなど基礎心理学的なものを加えることで,バランスが良いものになったと思われる.
■ビジネス書以外に光を当てた名著リスト、素晴らしいです。
★★★★☆
・ビジネス書では色々出ているので若干食傷気味なのですが、『心理学』という分野に光を当てたということを高く評価したいと思います。
・心理学は近年、やや停滞しているような気がしますが、一先ず古典にどう当たるかという観点ではなかなか良い選定だと思いました。
・個人的には、もっと最新の認知心理学の本をリストアップしてくれると、より素晴らしいのになあ、残念、ということで★は4つです。