荒ぶる魂をもつ天下御免の傾奇者
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前田慶次郎は六尺三寸、二十四貫の巨漢、朱塗りの槍を軽々と振り回す天下無双のいくさ人です。加賀の前田家に身を寄せていたころ、剽悍な野生馬を手なずけますが、この黒馬が尋常の馬ではない。足が速いだけでなく、危険を察知する能力に優れ、強力な蹴りで敵を倒します。利家は配下の忍者にこの馬を盗ませようとしますが、八人全員が殺されました。慶次郎はこの事件で前田家を追われ、京に出て傾奇者として名をあげます。
慶次郎の評判を聞いた太閤殿下は慶次郎を呼び出し、かぶいて見せろと所望するのですが、慶次郎はこともあろうに猿踊りを披露。利家をはじめ、なみいる大名は真っ青になりますが、いくさ人秀吉は慶次郎の真意を察知します。秀吉と慶次郎の心中の対決にしびれました。結局、秀吉は慶次郎に今後はどこででも意地を貫いてよいと許可します。
慶次郎は風流の道にも通じています。おかげで朝鮮旅行中、役人に厚遇されました。漢城府へ行く途中、古の伽耶国の末裔で伽耶琴の名手伽姫の危難を救い、日本に連れて帰りますが、この二人の関係がまことにほほえましい。殺伐な闘争世界における一服の清涼剤です。加賀の抜忍捨丸、えせ倭寇金悟洞、天才的な元武田忍者骨はいずれも一度は慶次郎の命を狙った危険な連中ですが、頼もしい味方になりました。話の展開がはやく、読みだしたらやめられない、読み終わったらまた読みたくなる。時代小説の傑作中の傑作です。