寺脇研をはじめとする官僚の見事な造語「ゆとり教育」の真意を、著者は射抜いて外さない。
人間の差別化を当然視、社会格差拡大を志向したエリート教育・・・
階級社会を下支えしてきた英国パブリックスクール流:人間の早期選別、つまるところ、世襲社会の恒久化である。
資力の裏づけある「持てる者」は、何の心配もなく選択の自由を謳歌できる一方、
「持てない者」にとっては、不安だらけという企業の論理 ― 市場原理 ― が、内面の自由、機会均等を保障してきた公教育を変質させ、
「勝ち組」「負け組」の意識を子供に植え付け始めてしまった・・・
庶民同士が、足を引っ張り合う「勝ち組」「負け組」思想の植え付けが、
専門教育ではなく、初歩の公教育に蔓延していく様には、まことに見事?な洗脳ぶりという他ない・・・
財政赤字削減の掛け声の下、社会的弱者の底上げを、日の丸・君が代との一体感に変容させ、徴兵制へと収斂させつつある官僚は、一方で、
特殊法人、天下りシステムは温存し続けてゆく。「悔しかったら頑張りなさい」とは、サッチャー元英首相の言葉である。
公立に入れた時点で「敗北」となる雰囲気が広まっている現状を煙に巻き、世襲社会という理不尽な仕組みをはぐらかしてきた誤魔化しの台詞である。
「本日天気晴朗なれど、波高し。皇国の興廃この一戦にあり」
この東郷平八郎もどきの台詞は、2004年2月16日護衛艦「むらさめ」のイラク出航に際し、玉沢徳一郎防衛庁長官が述べたものである。
お金のない庶民を、兵役に就かせる仕組みは、古代ギリシャにおける奴隷制度そのものである。
自分の頭で考える力を身につけさせず、体制に従わせる世襲社会・・・「ゆとり教育」とは、エライ人のための教育改革なのだと痛感させてくれた稀有の著である。