インターネットデパート - 取扱い商品数1000万点以上の通販サイト。送料無料商品も多数あります。

書評家“狐”の読書遺産 (文春新書)

価格: ¥777
カテゴリ: 新書
ブランド: 文藝春秋
Amazon.co.jpで確認
〈狐〉っていう自己規定が、この人の書評の核心を表しているように思う ★★★★☆
 この本の何が良いって、巻末に収められた、中野翠による〈狐〉追悼文が良い。鼻の奥がツンとなってしまった。
 いや、ただツンとなっただけではない。ああ、〈狐〉はそう読むのか! という発見があった。
 私は、実はそんなに〈狐〉に興味はなかった。どこかで偶々、文章を読んだことがあったかもしれないが、飽くまで偶々で、意識して追ったことはなかった。今回、この本を手にしたのも偶々、古書で安値で出ていたので、暇潰しにでもなるかと買っておいた。そしたら偶々、ヘンな暇が出来て読み始めた。
 うまい書評だと感じた。これ見よがしでない豊かな知識・教養があって、節度を弁えていて品があって、でも取り澄ましてばかりもいない。狷介さもあり、そのくせ愚直さもあり、茶目っ気もある。次々に読み進んだ。読み進んだけれども、しかしもどかしさもあった。
 一つ一つの書評の問題ではない。何がもどかしいって、ここに取り上げられている数々の本が、ここに取り上げられることによって総体として描き出す風景というか、星座のようなものの姿が、私には見えなかったのだ。なぜ、これらの本がここで取り上げられねばならなかったのか? それが分からなかった。中野翠の文章が教えてくれたのは、そこだ。少なくとも私は、それで納得した。
 その風景というか、星座のようなものの姿については、もし良かったら、直接この本にあたってみてください。ヒント。中野翠と〈狐〉を、ともに操っていた血。
80〜90年代の東京のオジサマになりたかった ★★★★★
わたしは禁煙を経験した者である。その際、山村氏の『禁煙の愉しみ』に助けていただいた。それで一方的に感謝と親しみを抱いており、拙いレビューも投稿させてもらった。山村氏が実は注目の匿名書評家<狐>氏であったのを知ったのはずっと後のこと。あろうことか、その時氏はもうこの世にはおられなかった。・・・ショックだった。 本書は<狐>氏の遺作。恥ずかしながら氏の書評は初めて読ませていただいた。『禁煙の愉しみ』でも、なんと知的で感性豊かな方かと感じたが、書評家としての文章はまた異なる味わいがある。弾むように生き生きとした、読書の喜びがほとばしる文章。限られた字数の中での的確な言葉選び。とても闘病中に書かれたものとは信じがたい。<狐>氏が長く活躍された『日刊ゲンダイ』、これをリアルタイムで読んでいた80〜90年代の東京のオジサマ方が羨ましくてしかたなくなった。 確かな読みと博覧強記ぶり、著者や他の評者に媚びない主張に圧倒された。しかし氏の書評の一番の魅力は、読者に寄り添う姿勢にあるとわたしなどには思える。読者と本をかえって遠ざけるような書評、評者のひけらかしや不親切が一番印象に残るような書評が少なくない中、<狐>氏の文章はそれらの対極にある。読者への配慮と手応えのある文章の見事さたるや、極端に言うと、まだ読んでない本ですら既に読んでいるような錯覚を覚えさせられるほど。<狐>氏の書評にかかると、どんな本も読者との距離が確実に縮まる。すぐれた書評は読者の興味や嗜好性という障害物を難なく越える、そのことを知らされた。 本当に残念なかたを亡くした。心よりご冥福をお祈りしたい。
「身につまされる」書評 ★★★★★
この本を読んで、あまりにおもしろかったので『<狐>が選んだ入門書』
『水曜日は狐の書評』と、たてつづけに買って読みふけってしまった。

 この書評家のぬきんでた美点は、書評対象からの引用の的確さにある。

その引用部分の魅力を、同じ著者の別の著作や全く別の著者の言葉などを
自在に援用することによって最大限の効果で、読者に提示してくれる。

 『<狐>が選んだ入門書』(ちくま新書)で、山村修は内田義彦の
『社会認識の歩み』を書評しているのであるが、そこでは
「断片断片を身につまされる形で知る」という内田の言葉を主軸に据えて
この書物、この著者のエッセンスを取り出してくる。

山村の書評のスタイルは、この内田義彦の寸言の実践に他ならない。
つまり、断片断片を身につまされる形で読者に知らしめる、のである。

少なくとも私は、これにより「断片断片を身につまされる形で知る」
という内田の言葉それ自体を「身につまされる形で知」ってしまった。
確かに本を読むというのはそういうことかもしれないなぁ、と感じ入ってしまった。
この書評家の術中に気持ちよくはまった爽快感があった。

思うに山村修という人は、「身につまされる」ような言葉や書物を読むことが
すなわち生きることと同義であるような、そのような人生を送った人なのだろう。

そういう人の書いた長目の書評集である。
内容紹介なしでも
これで、おもしろさは十分伝わると思う。

惜しい人を亡くしてしまった。