文字を媒体にして心を解放する
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四十も半ばを過ぎると、毛筆に関心を持つ人が多くなるらしい。結婚式の主賓に招かれた時はそれなりの風格を持って署名したいとか、写経を始めるならやはり毛筆でとか、いろいろ理由はあるのだろう。筆者も小中学校の頃は書道がイヤでイヤでたまらなかったが、ここ数年、妙に惹かれて、まっとうな楷書の教本を何冊か買って練習している。
そんな中、ちょっとした気まぐれで本書を買ってみた。で、お手本のとおりに書いてみた。そうしたら、これが何ともいえず、爽快!である。なんというか「美しい文字はこうあらねばならない」という楷書の枠を全部とっぱらって、自由に文字を書く楽しさは言葉に言い表せないくらい楽しい。これは大した発見である。
しかし、調子にのって「風」という感じをあたかも風に流されたかのようにビューっと長くかいたり、「象」という漢字を太く大きな字で書いたりしているだけだと、すぐ行き詰まる。漢字をあたかも絵画のごとく現物に似せて書くのは、ちょっとちがうという気がしてくる。自由に書けばいいといっても、なかなか難しい。
ともあれ、この解放感は素晴らしい。ある種の瞑想体験、といってよい。幼少の頃から「この字はこう」と定められ、長年それを従順に受け入れてきた自分の「形」を壊す解放感、ということなのかもしれない。まだその本質はよくわからないが、ひとまず、四十以上の、そろそろ人生のベクトルが変わってきた実感のある方には、ぜひお勧めしてみたい。