学歴エリートの教養主義、資本主義のエートスとしての修養主義
★★★★★
本書は著者自身も指摘している通り、教養を問題とする文献の走りである
ようだ。
明治以後の日本における(初期)修養主義の成立とそこから派生した教養
主義についてまとめられている。これらは高等教育進学者がごくわずかで
あった時代、学歴エリートのエートスであったという。本書のなかでは、
修養主義とは何か?教養主義とは何か?という操作的な定義がされずに
話が進んでいくので、門外漢にとってはじめのほうは少々ピンとこなかった。
のちに象徴的な表現として学歴エリートらの言葉が引用されるので、先に
定義をすることのトートロジー性を避けたのだろうし、初期の修養主義から
修養主義と教養主義の枝分かれがあるためグラデーショナルな定義付けの
ほうが効果的であったからだろう。
ただ、よみやすさを考えると次の本文の内容(158頁)を頭に入れておくほ
うがよさそうだ。
初期の修養主義:努力を通して人格を向上させること
→教養主義:文化の享受を通して人格を…
→修養主義:日常の身の回りのあらゆる業務を通して人格を…
学歴エリートの間にまずは(初期の)修養主義が成立することを第1章で、
教養主義的エートスが大衆的な修養主義から分離されていく過程が第2章で、
その教養主義が高等教育の大衆化のなかで衰退していく様子が第3章で
論じられている。ここまでは旧制高校や帝国大学の学生文化(教える側の
理念も含めて)への言及であったが、第4章では実業界における修養と
教養について住友の経営者を具体的な事例に用い論述している。日本にお
ける資本主義のエートスを修養主義にあると著者はみている。終いの第5章
は教養主義の弱化傾向に対する著者の意見や提案である。
本書は1995年の同名書の文庫版である。文庫化に際しては、あとがきの
あとに「再考・現代日本の教養」と題された文章が付加されている。
個人的に特に面白かったのは、修養主義と成功が矛盾なく結び付けられ
るための「結合の論理」をまとめた4章付論である。また、私は高等教育
が大衆化してからの世代なので、教養と人格形成の話は興味深かった。
正直、私にとっては教養は教養、人格形成は人格形成とあまりコネクト
していなかったからである。興味深く読ませていただいた。